おまもり
投稿者:リュウゼツラン (24)
罪があるのは父親の方だ。
今度は父親が傷つけられる番だ。
多分、僕は怒りに駆られ、物凄い形相をしていたんだと思う。
哀しそうな表情で僕の裾を掴むカナコは、僕とドアの間に立ち左右に首を振る。
「……大丈夫。大丈夫だから」
「大丈夫って……大丈夫じゃないだろ!」
カナコに怒鳴りつけたって意味がないと分かっている。
被害者である彼女をこれ以上傷つけるような言い方をするべきじゃないって分かっているんだ。
どこか冷静に考えられる余地がある一方で、それでも僕はどうしようもなく怒りが抑えられなくて、カナコの父親に向けた殺意を持て余している。
「これね……」
差し出されたのは僕があげた安産祈願のお守りだ。
「これ……持ってると、勇気が、出てくるの」
「……」
「痛みも……感じないんだ」
僕は何も言えなかった。
痛みを感じないのであれば、恐らくそれは凍傷のせいだろうし、でも今の彼女に何を言っても意味がないと僕は理解している。
「だから……大丈夫」
そう言って、今度はいつもの笑顔を見せるカナコ。
もう口元を隠そうとはしなかった。
「……そっか。じゃあ、もう部屋に入りなよ」
「うん。ありがと。じゃあね」
「うん。じゃあ」
僕は少しだけ手を挙げ挨拶し、彼女が部屋に入っていくのを見届ける。
少しだけ見えた室内には酒瓶やコンビニ弁当の空き容器やらで散らかっていた。
それだけで、彼女がどんな環境にいるのか想像するには十分だった。
歩き始めてすぐに、カナコにコートを渡してしまったことに気づいたけれど、戻って返してもらおうとは思わなかった。
インターフォンを押して折角寝ている父親を起こしてしまうことになりかねないし、今頃カナコは暖を取っている最中だろうから、自宅までのたった10分間寒さを我慢すればいいんだ。
カナコはどれくらいの時間、裸で外にいたんだろうか。
歯は折れ頬を腫らし、股から血を流していたカナコ。
どれほどの暴力が彼女を襲ったんだろうか。
外の冷気で頭も身体も冷えて落ち着きを取り戻した僕だったけれど、再び怒りが込み上げる。
胸が痛い。
最後に予想を裏切られた…
非常に面白かったです
貴方は、彼女を守ったよ。
歳の割に渋い割り切りしてんな、少年。
いい漢になるぞ。