子供の頃から料理が趣味だった。
父子家庭で育った僕は、6歳でご飯を炊き、7歳で包丁を握り、10歳にもなるとスーパーで食材を買い集め、父が仕事から帰って来るまでに最低4品のおかずを用意して待っているまでに成長していた。
もちろん簡単な料理ばかりだったけれど、父はいつも美味しいと喜んでくれて、僕はそれがとても嬉しかった。
大人になっても料理は続けていて、ほとんどのメジャーな料理はレシピを見なくても作れる自信がある。
子供の頃は父に食べてもらうのが喜びだったけれど、大学を卒業し、上京してひとり暮らしを始めてからは、いつも寂しくひとりで食べていた。
自分で作り、自分で食べる。自己満足でも美味しい料理ができればそれでいい。
そんな風に考えたこともあったけれど、それでもやっぱり、誰かに食べてもらいたくなる。
今の会社に入社し5年が経とうとしている。
僕は社内でも『料理好き男子』としてちょっとした有名人になっていた。
というのも、職場の人に自分の料理を振る舞う機会が多く、同じ部署の人間はほぼ全員一度は僕の手料理を口にし、美味しいと絶賛してくれていて、それが社内で噂として広まっているらしいのだ。
その評判を遠慮がちに感謝していながらも、内心はかなり舞い上がっていた。
食べてもらうだけでも嬉しいのに、これだけ高評価をもらえて称賛されるなんて。
有頂天になりつつある僕だったけれど、僕に対する好意的な評判は、ある日を境に失墜することになる。
その日は4人の女性社員を自宅に招いた。
3人は何度も来ているけれど、唯一、佐藤さんという女性だけは今回が初めてだった。
佐藤さんは、正直外見はお世辞にも美人とは言えず、他の社員からはブスだとかキモいだとか、陰口を叩かれているのを何度も聞いたことがある。
性格もおとなしめなので、僕はほとんど会話をしたことはないけれど、たまたま近くにいたので何となく誘ってみたところ、是非行きたいと言うので彼女も招待することになった。
僕のレパートリーはそれなりに豊富で、ポトフや油淋鶏が割と多くの人から高評価を得ているのだけれど、中でもスパイスから作るグリーンカレーは、持ち帰りたいと言う人が続出する程に絶賛されていた。
初めて来た佐藤さんにも自信作を食べさせてあげたいと思い、この日もグリーンカレーを作った。
いつものように女性陣の舌を唸らせるだろうと確信していたけれど、彼女たちは違う意味での唸り声をあげた。
いや、あげたのは悲鳴だった。
カレーにゴキブリが入っていたのだ。
そんなはずはない。1cm程の小さなゴキブリならまだしも、数センチはある大人サイズのそれを見落とすはずがない。
しかし、実際にカレーの中に混入していたという事実は覆すことができず、不衛生な食事を食べさせられたくないと、それ以来僕の家に来る人はほとんどいなくなってしまった。
唯一の救いは、僕の衛生観念に不信感を抱いた多くの社員たちとは違い、佐藤さんだけは「たまたま虫が入ることもありますよ」という慰めの言葉をくれただけではなく、毎回僕の家に招かれてくれたことだ。
僕はそのセリフに救われ、汚名を返上しようと、料理の腕を更に磨くことを決意する。
美味しい料理を作り続ければ、きっとまたみんな僕の料理を食べてくれるはず。
そう信じて僕は努力を重ねる。
しかし、その思い虚しく、またも虫が混入してしまう。
今度はポトフの中にハエが見つかった。
モテない女の戦略怖ぇ…
あーあ
ブスは男を寄せる能力は磨いて顔は磨かないんだーwww