おまもり
投稿者:リュウゼツラン (24)
血の気の失せた真っ白い身体を遠目に見て、一瞬人形かと思ったけれど、明らかに僕が知っている、僕が恋している少女の姿だった。
「カナコ!」
彼女の名を叫びながら駆け寄った僕に気付くと、彼女は小さく笑った。
「なに、してんだよ! これ……」
大好きな女の子の裸を見て喜ぶような余裕は僕にはなくて、真っ赤に腫れ上がった手足は痛々しく、股の間からは血が出ていた。
声が出ないのか、薄っすらと笑みを浮かべる彼女の意識は多分朦朧としていて、話なんか聞ける状況じゃないのは明らかだ。
僕は自分のダッフルコートを彼女に羽織らせ、彼女の両手を握り何度も息を吐きかける。
「このままじゃ凍傷になっちゃうよ。早く家に――」
家に? 入れるわけがないだろう。彼女の姿を見れば、何が起こったのか大凡の見当はつく。こんな仕打ちをした父親と同じ部屋になんて戻れるわけもないだろうし、戻したくもない。
「うちに行こう。親にも事情を話すし、全然気にしなくて大丈夫だから」
歩くことはできないだろうし、僕はカナコをおんぶしようと彼女の前に屈む。
でもカナコは僕の背に乗ろうとはしない。
「早く!」と急かす僕にカナコは「大丈夫」と掠れる声で返す。
「叔母さんが……近くに……住んでるから」
「でもそこまで歩いて行けないじゃん! じゃあ叔母さんの家までおぶって行くよ!」
「あと、これも……あるから」
カナコは右手に握られていたお守りを僕に見せ優しく微笑む。
「そんなもの気休めだよ! そんなのどうでもいいからはやく――」
首を振り、カナコはドアに凭れ掛かりながら辛うじて立ち上がる。
「お父さん、お酒飲んで、もう寝てると思うし……」
足の感覚がないためか、身体をふらつかせながらそう言った。
「でも……」
医療知識がない僕にでも、彼女の手足には一刻の猶予もないことくらい分かる。
カナコの言う通り、このまま部屋に入ってすぐにでも温めるのが賢明だ。
「ありがと。……ごめんね」
感謝と謝罪を告げ儚げに笑った彼女は、欠けた前歯を恥ずかしがりながら慌てて隠す。
途端に、僕は震え立った。
殺す。
カナコの父親を殺してやる。
なんでカナコがこんな目に遭わなければいけないんだ。
彼女が何をしたんだ。
こんな仕打ちをされる程、彼女に罪があるとでも言うのか。
あるわけがない。
胸が痛い。
最後に予想を裏切られた…
非常に面白かったです
貴方は、彼女を守ったよ。
歳の割に渋い割り切りしてんな、少年。
いい漢になるぞ。