流し雛
投稿者:take (96)
友人のS子さんから聞いた話です。
彼女が生まれ育った地方には、流し雛の風習がありました。
紙で作ったヒトガタに子供の厄を移し、それを川に流して一年間の無病息災を祈るというものです。
彼女が生まれるずっと前に子供たちが、
次々に怪我や病気をしたりと、よくないことが立て続けに起こった年がありました。
これはなにかの祟りかと、その集落の人たちはたいへん恐れたそうです。
S子さんの高祖父にあたる人が、
「何か理由があるはずだ」と、流し雛を流した川をずっと下っていくと、網漁につかう投網が、
岩と岩の間にひっかかり、その年に流した流し雛が堰き止められているのを見つけました。
「これが原因だ、流した厄がここで止められ、子供たちに返ってきていたのだ」
そう思った高祖父は、腰につけていた山刀で縄を切り、止められていたヒトガタをすべて流しました。
すると、病気に伏せっていたり、怪我をした子供たちは快復に向かい、その後も不吉なことは起こらなくなったそうです。
いい加減に投棄された網が偶然そうなったのか、意図的に仕掛けられていたのかはわかりません。
それからは、流し雛を行った後は、大人たちが川を下って歩いていき、無事に厄が流されているか、
きちんと見送るようになったといいます。
S子さんが子供のときの流し雛も、そうやって大人たちに見守られたそうです。
「世の中には不思議なことってあるもんですよねえ」
彼女はそう言うと、ちょっと寒そうに肩をすくめました。
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