留守番中の異音
投稿者:with (43)
俺は「ひいい!」とか悲鳴を上げながら部屋の隅で蹲って震えていた。
『ドンドンドン!ドンドンドン!アハハハハ』
アレは笑いながらドアを叩きまくってた。
アレは泥棒なんかじゃない。
そもそも人かどうかすら怪しいと子供の俺は怯えていた。
アレがドアを叩く度にその衝撃で心臓が止まりそうだった。
俺は神の存在は信じないが、これまでに神に祈った事は数知れない。
大体は腹痛時にトイレを探している時や、トイレに駆け込んだ後にもおさまらない腹痛に襲われた時だが、この時は本気で神に『助けてくれ』と懇願した。
その願いが通じたのかいつの間にかドアを叩く音も、アレの笑い声も聞こえなくなっていた。
そればかりか、玄関の方から「ただいまー!遅くなってすまーん」と父の声がするのだ。
俺はすぐに顔を上げて神様に数秒だけ感謝すると父の許へ駆け寄ろうと立ち上がり、ストッパーにしていたキャビネットをどかし始める。
「お父さん!おかえり!」と次第に笑顔になり助かったと涙ながらに喜んだ。
「お父さん、今さっき……」と早く父に何もかも伝えたくてドアを開こうとした瞬間、俺は生温いような妙な気配を察知してドアノブを掴んだ状態で硬直してしまった。
駆け込んだこの部屋の電気は点けていない。
その為、今振り返っても何も見えないだろうが、ドアを開けてしまえば廊下の照明が室内を照らすだろう。
勿論、ドアを開けてそのまま振り返らずに一階に向かえばいいだけの話なんだが、何を思ったのか、子供の俺はドアを開けて恐る恐る後ろを振り返ってしまった。
これが子供の好奇心という奴なのだろうか。
俺が振り返ると、そこにはソレが立ってた。
間近で見たソレの顔面は水膨れしているのか青白くブヨブヨな肌をしてて、目は赤黒く見開き、二・三本しか生えていない歯を剥きだしにするくらいに口を大きく開けて笑みを浮かべてた。
そして『見つけたあ』と甲高い声を出すと、両手を広げて俺に飛びついてきた。
「わあああああああああ!」と俺が絶叫すると、一階の方から「〇〇?二階か?どうした!おい!」と父が駆け上がってくる音がした。
俺は目を瞑り必死に手足を動かして抱き付いてきたアレを遠ざけようと抵抗を試みていたが、後に父から聞いた話では俺は溺れるように二階の廊下で一人バタバタともがいていたそうだ。
「〇〇!おい!しっかりしろ!」と父が抱き抱えてくれたのと同時に、俺も父にしがみつきながら「うわああん、お父さああん」と号泣した。
マジで怖かったから心の底から泣きじゃくったし、暫くは吃逆がおさまらなかった。
父は俺を抱き抱えて「大丈夫だ、大丈夫。何があった?」と慰めてくれたが、俺は泣き止むまで吃逆がひどくてまともに話せなかったので、俺の吃逆が止まるまで父はその場で俺の背中をポンポンと叩いてくれた。
で、俺は泣き止んでから父に「知らない子供?がいた」と伝えた。
父はひどく困惑というか、こいつ何言ってんだって表情で俺の事を見つめていたが、俺が襲われたという二階の部屋や、クローゼットにキャビネットの戸棚、一階の隅々まで誰か潜んでいないが確認してくれた。
だが、当然ながら子供や大人が隠れられそうな場所には誰も居なかったので、結局父は俺が悪夢でも見たのだと解釈して「お父さんがいるからもう安心だ。怖かったなあ」と普通に慰めるだけに終わった。
俺としても当時の記憶で今となっては曖昧だが、あの時、アレが俺に抱き付いてきた瞬間に恐怖のあまり目を瞑ってしまった為、現実味はない。
すぐに駆け付けてくれた父が目の前で部屋の中を確かめてくれたが既にアレは居なかったし、その晩は再び現れる事もなかった。
幼い時は、特別に怖いし、環境がかさなるとかなり、怖い!
その気持ちわかります。寂しかったんでしょうね。気持ちが現実となって現れたとか。
子供の時って色々な事に敏感だったような気がします。一人で夜の留守番は怖いですよ。