留守番中の異音
投稿者:with (43)
二階へ上がる階段には途中踊り場があって、直角に曲がっている。
曲がり角を過ぎて階段から顔を突き出すと、廊下には二つほど部屋の扉があるんだが、そのどちらから聞こえてくるのかを探るため、じっと睨んで静止した。
『……さ………ふふふ』
まだ声との距離が遠いのか、それとも元々声が小さいのか何を喋ってるのか全然わからない。
でも、最後には笑っているような『ふふふ』だとか『ははは』という響きだけはしっかりと聞こえてきた。
だが、二つある部屋の内、どちらから聞こえているのかは分からなかったので、俺はスッと立ち上がり二階の廊下へ躍り出ると、手始めに手前のドアを音を立てないようにノブを下ろして覗き込んでみた。
当然、中は真っ暗で何も見えないが、すぐに近くのスイッチを押して照明をつける。
もちろん、誰も居ない。
同じ事をもう一つの部屋でやって確認したが人の姿は確認できなかった。
奇妙な事にずっと聞こえていた声も聞こえなくなった俺は、内心ガクブルしながらも自分の気のせいだったのかと思い、二階の廊下を「あー怖かったー」と声に出して歩いてた。
もう怖いから一階に降りようと思って。
だが、今度は第六感が働いたのか、俺は素直に一階には降りなかった。
二階の廊下は一階の廊下を見下ろせるように吹き抜けになってて、俺は何となく二階から一階の廊下を覗いた。
二階の廊下からは階段途中の踊り場や玄関土間まで俯瞰視点でおがめるんだが、俺が覗いた瞬間、一階のどこからか『ドタドタドタ!』ともはや聞き間違えとかそういったレベルを超えた人が駆けずり回る足音がハッキリと聞こえて来たのだ。
俺は「へ?え?」と脳内処理が追いつかずにあんぐりと口を開けたまま一階廊下を見下ろして固まってた。
今度こそ間違いなく足音が聞こえるから完全に泥棒だと思った。
でも電話は一階のリビングにあるから両親に電話する事も警察に助けを求める事も出来ないと思ったし、何よりここから廊下を抜けて家から逃げる事も出来ないと瞬時に悟り、パニックになった。
そんな精神状態の中、足音は更に激しくなり、甲高い声で『アッハハハ』みたいな子供の笑い声が一階から聞こえて来た。
子供の泥棒?と更に不可解な情報が舞い込んでパニックになるが、俺が恐怖で動く事が出来ずに一階を見下ろしていると、一階廊下の死角から真っ白な肌着とでも言うのか、シャツとカボチャパンツみたいな薄着で黒く長い髪を振り回した子供のような何かが突然姿を現し、『ヒヒヒヒ』と笑い声を上げながら廊下を疾走してきた。
勢い余ってドタン!と玄関ドアに衝突したソレは一瞬動きを止めるが、すぐに踵を返し振り返る。
しかし、そこで俺は気付いてしまった。
その子供ような何かが振り返れば、当然二階の廊下から見下ろしている俺の姿がソレの視界に入るではないか。
そう考える事は出来ても足が竦んで動く事が出来ない俺はソレと目が合った。
ボサボサに爆発したような黒い長髪は顔面どころか前面を暖簾のように覆っていたが、ソレが俺を見上げた瞬間、その隙間から赤黒いような瞳孔がキラリと輝いたように見えた。
そして、ソレは『アハハハ、見つけた!』と甲高い声で発すると、再び全力疾走で廊下を走り階段を駆け上がってくる。
階段の踊り場の壁面にぶつかり一瞬だけ立ち止まったソレを見て、俺はハッと我に返った。
逃げないとヤバい。
俺は手前の部屋に駆け込んですぐに鍵を閉め、室内にあった小さなキャビネットに目を付けると、ギーギーと床の上を引き摺りながらドアの前にストッパーとして置いた。
まあ、ドアは外開きなので開けられたら意味を為さないが、子供ながらこれで大丈夫だと思ってた。
で、安心している所に『ドタタタタ!』とけたたましい足音が近づいてくると、恐らくアレがドアを『ドンドンドン!ドンドンドン!』とすごい勢いで叩いてくる。
幼い時は、特別に怖いし、環境がかさなるとかなり、怖い!
その気持ちわかります。寂しかったんでしょうね。気持ちが現実となって現れたとか。
子供の時って色々な事に敏感だったような気がします。一人で夜の留守番は怖いですよ。