うちの実家には、両親が結婚祝いに頂いた大きな壁掛けの鏡がありました。
父の兄、私の伯父からの贈り物です。
それは玄関の横の壁に取り付けられ、外出する前に必ず身だしなみをチェックする
鏡でもありました。
1メートル50センチほどの鏡は全身をくまなく映し、実際より随分大きく見える
のも特徴的でした。
鏡というのは、あの世と繋がりやすくなるのか、稀にこの世のものではないものを
映し出すことがあるようです。
その鏡も時折そのようなことがありました。
その日、学校から帰って来て玄関で靴を脱ぎ家に上がったときでした。
鏡に小柄な中年男の姿が映りました。
「え?どこのおっちゃん??ええ?」
一瞬だったので見間違いかと思いました。
じっと鏡を見ると自分しか映っていません。
「見間違いか…疲れてるのかな。中間試験前だし」
私は床に置いたカバンを持ち上げ自室に入ろうとしました。
もう一度去り際に横目で鏡を見てみました。
するとやはり中年男が映っているのです。
「うわ!泥棒?変態?」
玄関を見回しても誰もいません。
今、家に居るのは自分だけだし怖くなった私は一旦祖父母の家に避難しました。
夕飯の支度をしていた祖母に事の顛末を話すと、霊感の強い祖母はうんうんと
頷きながら塩を一つまみ持って来ました。
「取り敢えず、塩でもまいておきなさい。これはちょっと特別な塩だから
効くと思うよ」
私は自宅に帰って、玄関に塩をまきました。
中年男はそれ以来鏡には映りませんでした。
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