誰そ彼のたずね人

少し前から叩かれるようになったんだ。俺の部屋だけじゃなくて、このアパートの部屋全部叩いて回ってるみたい。
他の住人は気付いてないか、気付いても引っ越して出ていくかだろうな。

「訪ねて回ってるのか、その者は」
「誰にも相手にされないたずね人だよ。大体、まともなヤツならピンポン押すんだから。関わろうとすんなよな」
「だから開けずに覗くだけにしようと思ったんだ」
「大差ねぇよ。マジお前いつか死ぬよ」
「人ならいつか死ぬだろうよ」

「そういう意味じゃねぇってんだよ。お前がもしたずね人で名前放送されて、俺の部屋のドアガンガン叩いても入れてやらねぇって話だよ」
「…ああ、」

それは、と言ったところで部屋のスピーカーが鳴った。

「先ほどお伝えしたたずね人は、無事保護されました」

繰り返します、という役員の声に被せるように友人が缶のプルタブを引いた。「珍しいな、見つかった報告」と言った後、小声で「見つかって良かったな」と聞こえ、肯定を伝えるために首を縦に振った。
誰にも見つけてもらえないのは、

「それは、とても寂しいだろうからな」