私が子供の頃、まだ道路が完全に舗装されてた訳じゃなくて、所々赤土の砂利道だったんです。
そんな道でゴムボール蹴るもんだから、頻繁に人様の庭に入ったりしちゃうんです。
そんな時はチャイム鳴らして「とらせてくださーい」って言えばニコニコ顔で「いいですよー」って言ってもらえる。
それが私には当たり前でした。
ところが、一軒だけ、どうしてもボールを取りに行けない家がありました。
そこは、道路から少し奥まった場所にある古い平屋でした。
庭には雑草が伸び放題で、家の外壁は黒ずみ、玄関先には錆びた自転車が倒れたままになっていました。
子供心にも、なんとなく近寄りたくない家でした。
ある初春の夕方、友達とボール遊びをしていた時のことです。
蹴ったボールが、運悪くその家の庭に転がっていきました。
「あーあ、またあそこかよ」
友達が嫌そうな顔をしました。
私はボールを取りに行こうとしましたが、友達に腕を掴まれました。
「やめとけって。あそこ、誰も住んでないんだぞ」
「でも、ボールあるし」
私はいつものように玄関のチャイムを押しました。
ピンポーン。
返事はありません。
もう一度押しました。
ピンポーン。
すると、家の中から女の人の声がしました。
「はーい」
私はほっとして、いつものように大きな声で言いました。
「ボール、とらせてくださーい!」
少し間があってから、
「いいですよー」
と返事がありました。
私は庭に入り、ボールを拾いました。
その時、縁側の障子が少しだけ開いているのに気づきました。
隙間から、誰かがこちらを見ていました。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。