すると、Bはハッとしたように左腕を掲げる。
その様子を見ていた俺は「あ、あれか」とポツリと呟くのだが、俺の目から見てもBの手首に手痕など残っていなかった。
そのせいか、Bは「はあ?いつ消えたんだ?」と狂った面持ちで自分の腕を引っ掻いていた。
俺達が体験した事が悉く無かったかのように消えている。
この事実に俺とAとBは抜け殻の様になっていたと思う。
それから一旦白骨体をそのままに「とりあえず、山を下りたら近くの交番に知らせるか」と先輩は方針を定めた。
それは至って普通の提案だったが、俺達は何を提言する気力もなく、黙って頷くしか出来なかった。
数時間後、俺達は町に降りて最寄りの交番に駆け込み事情を説明する。
そして、常駐しているお巡りさんを一人連れて再びあの廃村に赴く事となった。
四度目の地蔵の前を通過して、白骨体が寝ている家に踏み入ると、お巡りさんは「ありゃあ、こりゃ死んでだいぶ経ってるなあ」と眉根を寄せて言った。
何でもこの村は随分前に最後の住人が出て行った為、以来ずっと放置されているそうだ。
その為、状況的に他殺の線は少なく、寧ろ寝袋に入っていた事から廃村に勝手に住みついたホームレスが餓死か病死したものだと結論づけた。
まあ、検視しなければ詳細は断定できないが、その後、一人づつ事情聴取を受ける事になるもその際には「ビックリしたでしょう」と地味に内面的な事を心配されたので、嫌疑をかけられている訳ではないと安心できた。
だが、仙人やら井戸の中の骨やらが消えたとか、俺達が昨日体験した事を話すべきかはかなり迷ったが、余計に疑われても敵わないので黙っておくことにした。
それはAもBも一緒で、どうせ黙っていても鑑識が調べれば人が最近まで生活していた事は分かるだろうと思っての事だった。
数週間後、あの白骨体の事や事件性の有無についての報告でもう一度呼び出される事になったが、その時、寝袋に包まれていた白骨体は死後5年以上は経っている事を伝えられた。
その当時、俺達は高校生、若しくは中三の計算になる為、完全に本件とは無関係だと言い渡されたので漸く心から安堵できた。
心情的には僅かながら疑いの目を持たれていた事にどぎまぎしたが、晴れて無関係だと告げられれば緊張が解けるものだと実感した。
しかし、いよいよ仙人と白骨体の関係性が分からなくなり、俺は頭を抱える。
お巡りさんの話では、あの家に限らず俺達が寝泊まりに使用した家以外に生活感の痕跡は無かったらしく、恐らく俺達が踏み入れるまでは誰も寄り付いていないとの見解だった。
だがそれは、仙人が生活していた痕跡が抹消されていたと同義に聞こえた。
だとしたら、あの仙人は今までどうやって生活していたのだろうか。
井戸に遺棄された骨も、やはり先輩の見解通り鹿や猪、狸のものだったそうだが、腐食した肉がこびりついていた点には少し首を傾げた様子で「これに関しては比較的新しいから誰かがやったんだろうけど…」とお茶を濁す様に言葉尻を小さくしていく。
腐食具合からして俺達が来る数日~数十日前のものだろうが、お巡りさんは俺達が村を訪れた日程を調べ上げているので訊ねる事はしなかった。
結果、浮浪者や俺達みたいな輩があそこで動物を狩って解体したのかもしれないと話し、「一応、狩猟行為とか禁止する区域なんだけどね」と鼻頭を掻く。
その流れで「あと、君たちも住居侵入は法律で禁止されているからね」と厳しい面構えで釘を刺されたので、肩を縮めて「すみません」と反省したが、説教は数分続いた。
数日後、その地元の新聞の片隅に人骨発見の記事が載っていたが、依然仙人の行方については何も分からなかった。
一体なぜ俺達の前に現れたのか、なぜ井戸の場所を教えたのか。
なぜ俺達が覗いた時にあった無数の骨が消えたのか。
仙人が寄越した鍋の肉は何の肉だったのか。
どうして埋めた鍋の具材が消えていたのか。
あの晩、三人が同じ夢を見て互いの体に噛みついていたのは何だったのか。





















すげえ
めっちゃ読み応えありました
こういうのもっと読みたい
これ最高
描写がすごい
これほん怖とかの実写で見てみたいな
想像で吐き気がやばかった。怖かった。
漢字で書いた方が読みやすい言葉と、ひらがなで書いた方が読みやすい言葉がある。って文学者が言ってた。
本当に理解しているエンジニアは説明の時に専門用語を使わない。それと似ている
読み応えあるしきちんと怖い
大学二年生で平成後期生まれって書いてるから飛び級でもしたのか?と思ったけど後半って書きたかったのかな?
俺も気になった
2023年1月に投稿で夏休みの話ってことは、どんなに若くても2022年夏に大学二年生=2003年(平成15年)生
平成後期生まれとは言わないわな
細かいかもだけど、こういうとこで1回気になると一気に没入感無くなるからもうちょい設定練っといてほしい
↑
わかる。設定に引っかかると萎えるよな
俺は「排他的であればあるほど研究意欲が沸き立つ」で「オカルト好き」なのに完全に他人任せで調査に関わらない先輩が気になった
翌日迎えに来れるなら別の重要な調査と被ったとかじゃないだろうし
語り手達に状況を再確認させる人物がストーリー的に必要だったのは分かるけどちょっと萎える
いいねこの話
おもしろかった。