忘れてしまった家の鍵
投稿者:じぇむ (8)
私の家は共働きでした。
小学生の頃の放課後は、近所の祖父母の家で過ごしていました。
中学生になったころには、鍵を持たされ自宅で両親の帰りを待つ日々でした。
几帳面な性格なので、忘れ物などない方ですが、その日に限って自宅の鍵を忘れてしまいました。
自宅のドアの前で、両親を待つにしても3時間ほどかかります。仕方なく、祖父母の家に向かいました。
家には祖母が一人で留守番をしていました。
久しぶりに来たので、お茶菓子など頂き談笑していました。
1時間ほど経過したころ、電話がなりました。
祖母が対応すると、顔がみるみる曇って来ます。
「おばあちゃん、どうしたの?」と問うと「お母さんが、あんたの曾おばあちゃんが危篤だって」と言いました。
祖母の母、私の曾祖母は当時、95歳でした。
その日もいつもと変りなく過ごしていましたが、心筋梗塞を起こしたようです。
「どうしよう、行かないとね。でもおばあちゃん、足が悪いからさ」
祖母は足が悪く、一人で行動するには心配がありました。
「じゃあ、私が一緒に行くから」
そうして、祖母と私は共に、曾祖母の家まで行きました。
ほとんど虫の息で、傍らには主治医の姿もありました。
曾祖母は祖母を待っていたかのようでした。
「ご臨終です」と主治医が告げ、曾祖母は95歳の生涯を全うしました。
私が家の鍵を忘れなければ、曾祖母の家には行けなかった。
携帯もない時代のことです。
鍵があれば、祖母の家には行かず、友達と遊んで連絡も付かなかったでしょう。
両親も仕事で出られず、祖母は母親の死に目に会えないところでした。
曾祖母が呼んでいたのでしょうか。鍵を忘れたのはあの時だけです。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。