狩の真実
投稿者:kana (210)
「ダーン ダーン」勢子が撃った。かなり近い。
慣れるとどの方向へ向かって撃ったかも解るようになる。
緊張が極限まで高まる。寒さで手がしびれないように股ぐらに挟んでいた両手を出し、
防寒のためと保護色の毛布を静かにかなぐり捨てた。
セフティーをあらかじめOFFにしてある愛銃のレミントン1100を腰に構えて獣道の先を伺う。
ゴーッという大きな音。イノシシだ。鹿も熊も坂道を駆け下りるときは、
まるで11トンダンプが立木をなぎ倒して突進しているような大きな音がする。
心臓が口から飛び出すかのように高鳴る。
うっかりハズしてしまって逃げられたら、仲間達から3年は冷たい目で見られる。
次の猟のときは一番イノシシが来そうにもない確率の悪いタツミに立たされる。
名誉のためにイノシシと正面衝突してでも倒さなければならない。
70メートル前方からこっちに向かってまっしぐらに突き進んでくるゲーム。
(鳥も獣もクレイビジョンも全てゲームと呼ぶ)
胸の高さに生い茂っている熊笹を隠れ蓑にして全速力で走るイノシシは悲壮感が漂っている。
いかに上手に隠れても、後ろからビーグルが8匹もキャンキャンキャンと鳴きながら追いかけて来るから隠れようがない。
とは言っても、まだこちらからは姿が見えない。
「アッ!ノロだ?(ニホンカモシカ)いや熊かな?」
両方とも真っ黒だから熊笹越しにチラッと見たのでは分からない。
ゲームと私の間に3メートルほど熊笹が切れているところがある。
そこへ銃口を向けて、瞬時に引き鉄を引ける体勢をとった。
距離30メートル。「熊だ!」
この時期の熊は冬眠に入る前だから毛皮の下に10センチもの脂肪がのっている。
9粒丸で10センチの脂肪を射抜いて内蔵を破壊する事が出来るだろうか?
一瞬ためらった。
熊が私に気づいて直角に左に曲がった。
「しまった!」
引き鉄チャンスを逃がしてしまった。
左のタツミはリーダーと初心者だ。
すかさず左の空に向けて一発撃った。
「そっちに行ったぞ!」
かねて打ち合わせの行動だ。
kamaです。
こちらのお話の解決編として「-事件記者 朽屋瑠子-」という作品も書かせていただきました。
こちらの作品に登場したリーダーが主要メンバーとして登場します。
合わせて御覧ください。