叉鬼(マタギ)
投稿者:四川獅門 (33)
短編
2021/02/20
21:24
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田淵さんが無事に村にたどり着いた頃にはすっかり日が暮れていた。両親が帰らぬ息子を探すために、仲間を集め支度をしている最中であった。
田淵さんは病院へ担ぎ込まれ、一命を取り留めた。
田淵さんが山で起きたことを父親に話すと、父親がこんな話をしてくれた。
マタギの歴史は1000年以上前に遡る。清和天皇の時代。上野国の赤木明神と下野国の日光権現が、激しい戦を繰り広げていた。
大蛇である赤木明神の力は強大で、日光権現は苦戦を強いられていた。
そこで日光権現は白い鹿に姿を変え、山を駆け降り、日光山の麓へ住んでいた万事万三郎という弓の名手に助けを求めた。
戦に加勢した万三郎は、赤木明神の両目を射抜き、傷ついた赤木明神は撤退した。
万三郎に救われた日光権現は「山立御免」という日本全国で狩りをする権利を授かり、それがマタギの始まりと言われている。
「お前はきっと、神様に助けられたんじゃ」
田淵さんはその生涯をマタギとして生きた。あの男の背中を追うかの様に、腕を磨き、数多の獲物を仕留めた。
そして2008年。そのマタギ人生に幕を閉じた。享年95歳であった。
田淵吾朗に捧ぐ
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静かな語り口が良い
頬に熊の爪の一撃を食らって顔がえぐれなかったのかな?
渋い文体で良い味わいですね。
児童文学の旗手、松谷みよ子の昔話譚(とても異色だった)を思い出しました。
深い専門知識と経験が背景にあるのを感じた
読み応えがあった