お裾分け
投稿者:件の首 (54)
私は副業がてら料理の配達をしている。
その日、手近な店からの配達を受注した。
自転車で向かった届け先は、新しく出来たマンションの一室だった。
オートロックのロビーを通りエレベーターで7階に上がり、部屋の前に来た。
ドアのチャイムを鳴らす前に、ドアが開いた。
顔を出したのは、エプロンを着けた30台前半ぐらいの女性だった。
落ち着いた雰囲気で、美人と言える顔立ちをしていた。
「ありがとう! 早いんですね」
彼女は嬉しそうに料理を受け取る。
「あ、ちょっと待って!」
帰ろうとした私を、彼女は呼び止めた。
「ちょっと、ちょっと待っててね」
部屋の奥に入った後、大きなフリーザーバッグに入れた骨付き肉を差し出した。
「作り過ぎちゃったから、お裾分けどうぞ」
こんがりと絶妙な焼き目がついて、クリスマス辺りに見るローストチキンと同じような仕上がりだ。スパイスの香りが食欲をそそる。
「ありがとうございます」
次の仕事も予定していなかったので、遠慮せず有り難く頂く事にした。
数日後。
「――県警の者です」
自宅にいた私の元に、2名の刑事がやって来た。
「近所で発生した殺人事件について、お聞きしたい事があります」
彼らが言うには、私が料理を配達した相手が殺害されたのだという。
住所は、正しくあのチキンをくれた女性の部屋だった。可哀想に。あんな親切な人を殺すなんて、世の中は間違ってる。
死体はバラバラにされ、所々なくなっているそうだ。
「あなたがその日最後にガイシャの部屋に訪れた事になるのですが、怪しい人は見ませんでしたか」
「些細な事で構いません」
「……思い当たりませんね」
結局、その事件の犯人はまだ見つかっていない。
彼女のためにも、是非とも捕まって欲しいものだ。
チキンの恩義もある事だし。
あれは実においしかった。今となってはあれ以外のどのチキンでも物足りない程だ。
ん?被害者は誰?