痛いカップルの話
投稿者:ねこじろう (147)
女はそう言って、タロウをぎゅっと抱きしめる。
「その日から家族の一員が一人増えて、わたしたちの新しい生活がスタートした。
それまではタカシ中心に回っていたんだけど、今度はタロウに変わった。
当時この子も小さかったから、わたしの献身と愛情が必要だったからね。
そしたらしばらくしてタカシの様子がおかしくなってきた。
毎日7時には帰ってきていたのに、遅くなるようになった。
たまに深夜になることも、、、
おかげで喧嘩も増えた。
また携帯の中身を見せてとお願いしても、見せてくれなくなった。
以前は簡単に見せてくれていたのにパスワードどころか、指紋認証の設定をしていた。
その時、わたしはピンときた」
「タカシは浮気している!」
そう言って女はじろりと、タカシの横顔を見る。
彼は真っ青な顔をしながら、蛇に睨まれた蛙のように小さくなっていた。
「そして、とうとう二人にとって決定的な出来事があった。
それはタロウの二度めの誕生日の日のこと。
わたしはタロウと二人、バースデーケーキを挟んでテーブルに座り、タカシの帰りを待っていた。
だけど9時になっても帰ってこない
その時わたしは思った。
『タカシはまた女と合っている』
わたしはタロウを寝せつけて電気を消し、護身用に持っていたスタンガンをテーブルの上に置くと、暗がりの中でじっと帰りを待った。
結局タカシが帰ってきたのは深夜2時過ぎだった。
それからはいつもの醜い言い争いだ。
ただその日のタカシはいつも以上に泥酔していて、何を思ったのかベッドで寝ているタロウを抱き上げると床に投げつけた。
わたしはこれだけは許せなかった。
咄嗟にテーブルのスタンガンを持つと、真っ直ぐにタカシの首筋に当てる。
すると彼は声も出さずに、その場にへたりこんだ。
すぐにわたしはスーツのポケットから彼の携帯を出して床に置く。
そして台所からまな板と刺身包丁を出してくると、彼の傍らに正座し、膝の上にまな板を置いた。
それからその上に彼の手を乗せ、その細い右手の人差し指の第一関節に力任せに刃を入れた。
そしたらね、パキリって、、、」
いろんな意味で痛いカップル。
タカシとタロウ何度も混同してしまった。