痛いカップルの話
投稿者:ねこじろう (147)
そう言って女はいとおしげに膝上に座る人形の耳元に囁き、頭の後ろにキスをした。
そしたら驚いたことに、タロウがドングリ目をぱちくりして『うん!ボクもママとパパのこと、大好きだよ』としゃべったのだ。
ただこれは女の仕業のようだった
腹話術を使いタロウにしゃべらせているようだ。
一体この女の心理構造はどうなっているんだろうか?
ふざけているのか、大真面目なのか?
対して隣に座るタカシの方は、色白の顔を俯け両手を膝に乗せて、先ほどからただじっとしている。
「マスター、わたしこう見えても身持ちは固いほうで、タカシと付き合うまで、ちゃんと男の人とお付き合いしたこととかなかったのよ。
本当よ、こんな良い女が、、、
フフフ信じられないでしょ。
でも、この人があまりに熱心にアプローチしてきたものだから、まあ嫌いなタイプでもなかったし、付き合うようにしたの。
ただ始めに約束してもらったことがあった」
「ほう、それはどんな?」
わたしは挽きたてのコーヒーを二人の前に、アイスクリームは人形の前に置きながら聞いた。
「お互い、隠し事はしないようにしようねって」
女はそう言ってまた、タカシの横顔を見る。
彼は、母親と授業参観の帰りに食事をしている中学生のように居心地悪そうに下を向いていた。
「だからお互いの携帯はいつも見せ合っていたし、夕食のときは、その日にあったことを報告し合っていたの。
もちろん誕生日や記念日には旅行に行ったり、プレゼントし合ったりもしていた。
飲み会があった時には迎えにも行った。
そんな感じで、あっという間に幸せな3年間が過ぎていった。
それで、わたしたちもそろそろ籍を入れようか、とお互いの両親に挨拶に行ったの。
まずタカシの両親のところに行ったんだけど、この人のお父さんの第一声が面白くてね。
真面目な顔して『失礼ですが、お歳は?』って聞くから、わたしが正直に言ったら、
『まさか、わたしの息子のタカシが、わたしより歳上の女性を連れてくるとは、、、』って言って、眉間に皺を寄せて下を向くものだから、わたし可笑しくて可笑しくて一生懸命笑いをこらえていた。
ただその後しばらくしてこの人のお母さんが言った言葉が、わたしの心を深く傷つけた。
─老後はタカシの子供と、公園に行くのが楽しみだったのに、、、
わたし家に帰った後、ベッドに寝込んでしまった。
そして、タカシをひどい言葉で何度も罵倒した。
『あんたなんか、わたしのような女なんかと別れて、もっと若い女と付き合ったら』って心にもないことを言ってね。
そしたらタカシがわたしの誕生日の日に、この天使を連れてきてくれたの」
いろんな意味で痛いカップル。
タカシとタロウ何度も混同してしまった。