峠の車中泊
投稿者:Naminori/C (2)
運転席、助手席の座席を倒し、外の空気を入れる為に窓を3センチ程開けておき、タオルケットをかけて静かに眠りについた。
俺は朝を迎えるまでに2回程目が覚めたが、いずれも直ぐに寝付いた。
夜中に一度目が覚めたが何事もなく、二度目に目が覚めた時には既に辺りが薄明るくなってきていた。
そうして、何事もなく俺は朝を迎えた。
大いびきをかいて寝てる親父を起こし、夜とは打って変わってすっかり明るい雰囲気になった山の景色を横目に車で峠を下った。
その道中、親父がなんの前触れもなく唐突に聞いてきた。
親父「昨日、何もなかったか…?」
俺「え?何もなかったって何が?」
親父「いや、なかったならいいや…。」
俺「え?笑 なになになにどういうこと?笑 なんかあったの逆に?笑」
親父「いや、今はちょっとまだアレだから、後で話すわ…笑」
俺「え、ちょ何それめっちゃ気になるんだけどw 今教えてよ笑」
親父「いや、いいからいいから…。笑」
ていう具合で、何度聞いてもその場では何故か頑なに話をはぐらかされた。
俺も、まあ後で話してくれるって言うし、今日の楽しみの一つに取っておくことにしようと思い、それ以上は突っ込まなかった。
ただ、何にもなかったかと俺に聞くぐらいだから、昨夜何か怪奇現象でも起きたに違いないと後で聞く話に期待した。
そしてその日の夕方、キャンプ場での夕食のBBQも殆ど食べ終わった頃、不意に親父が「じゃあ、そろそろ話すか〜」とさも意味ありげに口を開いた。
ヒグラシの鳴き声が響き渡る夕暮れ時の森の中で、ゆっくりと親父が昨日あったことを話し始めた…。
どうやら昨晩は親父も何度か夜中に目が覚めたらしい。
…のだが、その内の一回におかしな事が起きた。
ふと夜中に目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗で、時刻を確認してなどいないが、寝始めた時間帯と辺りの暗さ加減から想像して凡そ2〜3時ぐらいだったろうという。
まだ意識がぼんやりとしている中、不意に運転席の窓の方から“コンコンッ!“という音がした。
親父は寝ぼけながらも反射的に音のした窓の方へ視線を向けると、窓の外に何かを抱き抱えたようにして立つ人のシルエットが見えた。
そして、それがすぐに“コンコンッ!“と窓をノックしてきた。
本来ならば、こんな真夜中の山の上で突然目の前に人が現れたなんて時点で大分恐ろしい事態のはずなのだが、普段から寝起きが悪く、この時点まで完全に寝ぼけきっていた親父は、なんの恐怖心も抱かずにゆっくりと身体を起こし、僅かに開けてある運転席の窓越しに、それに向かって「何ですかっ??」と不機嫌そうに聞いたという。笑
身体を起こして正面から運転席の窓の外を覗くと、そこには白っぽいワンピースを着た30代ぐらいの長髪の女性が、赤ん坊を抱き抱えて目の前に立っていた。
そしてその女は親父と目が合うと、このように言った。
『山で主人と逸れてしまい、子供もいて困っているので、今晩だけ一緒に車の中に居させてもらえませんか…?』
…と。
長野には、真っ昼間でも地元の人は怖がって通るのを嫌がる峠がたくさん在るよ。
そういう峠に限って景色が素晴らしいから、何も知らない県外からの観光客が恐ろしいモノを見てしまい、ふもとのコンビニや民家に顔面蒼白で駆け込んで来る事、多々。
入れていたらどうなっていたのか…怖い
星が綺麗でも峠で車中泊をするのが凄い。