峠の車中泊
投稿者:Naminori/C (2)
中学生の頃、親父と車でキャンプに行った時に車中泊した峠で起きた心霊体験を話す。
尚、この話の体験者は親父のみで、心霊体験は親父から後日聞かされた話である。
小学生の頃から毎年夏になると親父と2人で2泊3日のキャンプに行っていた。
神奈川県の丹沢湖、山梨県の白州、長野県の八ヶ岳など、色んな所へ行ったが一度いい場所を見つけると2〜3年は同じスポットに立て続けに行くことが定番だった。
そして、その年は八ヶ岳方面へ行った。
親父のステーションワゴンの荷台一杯にテントやBBQコンロ、ランタンなどのキャンプグッズを積み込んで夜に出発する。
親父との旅行では毎度お馴染みの松田聖子やユーミンの曲をラジカセで流しながら、横浜市の自宅から下道で信州へと向かった。
中学生の俺にとっては、この旅行が年に一度の待ちに待った楽しみで、今年はどんな冒険ができるだろうと胸を躍らせていた。
…が、まさか2日目の朝に親父から心霊体験を聞かされることになるとは夢にも思ってはいなかった。
初日、まだ夜中のうちに山梨県某所の道の駅に到着し、車で仮眠しながら朝を迎え、開店時間と同時に道の駅のスーパーで食材を買い込んで、お気に入りスポットの渓谷に行き、BBQや川遊びを楽しんだ。
キャンプ場を予約しているのは2日目のみで、初日である今日も夕食と風呂を済ませたら、その辺の道の駅か何処かで車中泊する事になっていた。
…のだが、親父が「今年もあの場所に行くか。」と言った。
あの場所とは、去年発見したとある峠の頂上地点のことで、夜に行くと満天の星空を眺められる穴場スポットの事だ。
今年もそこで星を見ながら車中泊といこう、ということになった。
長野県某所、M峠頂上地点。
あえて名前は伏せるが、調べれば大体の目星はついてしまうだろう。
去年はそこで満天の星空を眺め、何事も無く過ごしたので、この時点では何らそれらの類のことを想像することはなく、現地へと車を走らせた。
…のだが、後から考えてみれば、今年のM峠は行きから去年とは様子が異なっていた…。
麓から峠に入った時から異様に大量の霧が出始めた。
灯り一つ無い真っ暗な夜の山道で、鬱蒼と生い茂る木々の隙間から、絶え間なく濃い霧が出続ける様子は、何とも不気味な雰囲気だった。
勿論、夜の峠道というだけに対向車も後続車も皆無に等しかった。
おかしなことが起こるなんて事までは想像しなかったが、そんな濃い霧に包まれた夜の峠道が何とも言えない異世界感とアウェイ感を感じさせ、何となく重たく心細い気分にならざるを得なかった。
お互い口には出さなかったが、親父も同じ事を感じていた。
…だが頂上付近まで来ると段々と霧は無くなっていった。
そして、頂上地点に到着した。
エンジンを止めて、車を降りると本当に真っ暗な山の上なのだが、逆に月明かりで空が明るく感じる。
御目当ての星の様子はというと相変わらず満天の輝きを放っていた。
行きの道中がなんとなく歓迎されてない雰囲気だっただけに、霧も晴れてこの星空を見れた時は漸くの安堵感を感じた。
風に揺れる木々の音がさり気なく、夜の静寂に包まれた山の上で、暫く星空を眺めた後、車に戻って寝ることにした。
この後、真夜中に訪問者が訪れることなど知る由もない…。
長野には、真っ昼間でも地元の人は怖がって通るのを嫌がる峠がたくさん在るよ。
そういう峠に限って景色が素晴らしいから、何も知らない県外からの観光客が恐ろしいモノを見てしまい、ふもとのコンビニや民家に顔面蒼白で駆け込んで来る事、多々。
入れていたらどうなっていたのか…怖い
星が綺麗でも峠で車中泊をするのが凄い。