確かに存在したSくんの話
投稿者:ねこじろう (147)
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あれから月日は過ぎ去り、中年になった俺が久しぶりに小学校の同窓会に出席した時のこと。
貸し切りの洒落たたレストランに、20人ほどの男女が集まっていた。
店内のあちこちに丸テーブルが配置され、その上に置かれた銀のトレイには色鮮やかなオードブルが並べられている。
皆思い思いに丸テーブルを囲み、談笑していた。
その姿を見た瞬間に記憶が蘇る者もあれば、頭髪が後退したりお腹が出たりして全く思い出せない者もいた。
俺は、当時同じ公営団地に住んでいたAと話していた。
「俺たち、住んでいたのが同じ団地の3号棟の3階と4階だっただろう。おかげでいろいろと重宝したもんだな。ところで他にクラスメートであそこに住んでいた奴とかいたっけ?」
Aがコーヒーカップを片手に尋ねる
「そうだな、、、同じ学校じゃなかったけど、Sくんといって4号棟に住んでいた子がいたな」
そう言うと、Aはちょっと考えるように右斜めに視線を移した後、こう言った。
「4号棟?
いや、確かあそこの団地は3号棟までしかなかったはずだぞ。」
「え!?
だって俺、、、」
言いかけると、Aが遮るように言う
「間違いないよ。
だって俺の親父ってさあ、あの頃ゼネコンに勤めてて、あそこの公営団地が建てられた経緯とかも良く知ってたんだよ。
あそこ、確かにもともとは4号棟まで建てる予定だったそうなんだけど、ちょうど3号棟の南側一帯が墓地で、さすがに建てることが出来なかったそうなんだよ。
まあ、大人の事情という奴かな?
ハハハ、、、」
◆◆◆◆◆
帰りの電車の中。
日曜日の夜だからなのか人影は疎らだった。
俺は長椅子に座り身体を後ろ側によじって、車窓に映る自分の顔を見ながらSくんとの思い出の糸を手繰り寄せていた。
元気良く部屋に入っていくSくんの背中。
その時廊下奥に見える暗い和室。
奥でボンヤリ灯りを放つ豪華な仏壇。
その前で正座して、ただひたすら祈っている日本髪で着物姿の女。
そしてベッドに座り、じっとこちらを見ているSくんの空虚な瞳。
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