不思議なノラ猫「ぶち」
投稿者:ぴ (414)
私が通っていた中学校の裏には、数匹のノラ猫が住み着いていました。
当時はまだノラ猫が当たり前のように道を闊歩している時代で、別に珍しくもなんともなかったです。
学校の運動場の裏に竹林があり、そこからよく猫がうろうろと出てくるのを目にしました。
数匹の中でも、私たちに一番なじみがあった黒ぶちの猫が「ぶち」といいます。
特徴どおりのありきたりな名前でしたが、その名前を呼ぶと振り向く愛嬌たっぷりのノラ猫でした。だからぶちはうちの学校でアイドル的存在だったのです。
そんなぶちを校門の外で見たのは、確か冬の始まりの肌寒くなってきた頃だったと思います。
いつもはあまり竹林から出ていくところを見たことがなかったので、珍しいなと思いました。
下校中だった私はなんとなく気になって、ぶちを目で追っていました。
周りには部活終わりに帰る途中の学生や校門前でしゃべっている学生が複数人いました。
そうやって、ぼーっと見ていたときに、目の前でそのトラックが突っ込んできたのです。
幸いなことに、そこには人はいなかったものの、ノラ猫がいました。
私は思わず「ぶち!」と叫びました。多分私が一番ぶちの近くにいて、その現場を間近で見たのです。
トラックがいきなり歩道につっこんできたのに、ぶちは何かに気を取られていたのかトラックに気が付いていないようでした。
そして私の叫び声にぴくっと反応してこっちを向きました。
そしてこっちを向いたその瞬間にぐしゃっとトラックに敷かれてしまったのです。
あまりの衝撃シーンに、これは現実なのかとしばらく現実逃避していたように思います。
放心状態だった私を尻目に、事態は目まぐるしく動きました。
校門前は事故の大きさに野次馬や近くにいた学生がどんどん集まってきて、そして救急車が来て、トラックの運転手を運んでいきました。
後に聞いた話によると、トラックの人は持病で意識を失っていたらしく、事故の衝撃で即死だったらしいです。
近くにいた学生はどうやら私と同様にノラ猫がぶちだと気づいたようで、わんわんと泣いていました。
ぶちは車の下敷きになっていました。もう見られないくらいの状況になっており、生きているわけがなかったです。
私はあんまりなぶちの最後に、胸が痛くなりました。
私以外にもぶちがトラックにひき殺されるところを目撃した人は複数います。
私はすごく近くにいて、あの特徴ある黒縁を見間違うはずがありません。
さらに「ぶち」と叫んだ私にぶちはいつものように振り返って反応していました。
そう、事故で死んだのはぶちで間違いなく、確かにぶちはあそこで死んだのです。完全にそう思っていました。
それから一部の人たちで、ぶちのお葬式がひっそり行われたと聞きます。
学校のアイドルだったノラ猫がいなくなって、しばらくの間、学校中でしんみりしたムードが抜けなかったです。
私は事故現場を目撃してしまったトラウマからか、しばらく学校を休むくらいにはぶちのことで落ち込みました。
しかし、ずっと学校を休むわけにもいきません。こうして私は少し時間をかけて、心を休めてまた学生生活に復帰したのです。
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