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不思議体験

キミ・ナンヤネンさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

もしも財布を拾ったら
長編 2022/08/11 01:25 7,241view
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俺が初めて財布を路上で見つけたのは、まだ大学生だった10年ほど前だろうか。

ある夏の日の夕方、大学からアパートへ帰る途中の交差点で信号待ちをしていた時だった。

横断歩道の向こう側に何かが落ちていたのが見え、信号が青に変わって道路を渡るとそれが二つ折りの財布だとわかり、とりあえず拾って中を開けてみた。

中には1万円札が1枚と、いくらかの小銭、そして運転免許証やカード類が数枚入っていた。

その時はバイトの給料日前で金が無かったから、正直、ほんの一瞬だけ現金をネコババしようと思った。

しかし、当たり前の事ではあるが、素直に交番へ届ける事にした。

近くの交番に行くと、俺の名前や住所、そして持ち主からの謝礼を貰うか否かと言った書面を書いたのだが、謝礼はもらわない事にした。

その数日後、無事持ち主に戻ったと交番から連絡があった。

それからというもの、不思議な事におよそ2年ごとに財布を拾うという経験を繰り返す事となった。

ある時は公園で、ある時はスーパーの駐車場で、時には駅のトイレで、という具合だ。

もちろん、その都度店や交番に届けたのだが、その全てが持ち主に戻ったらしい。

そして今日もまた財布を拾った。これで確か5回目だ。

ある暑い日の昼下がり、近所にある自販機の下に黒い長財布が落ちていたのを見つけた。

中を見ると、5万円ほどの現金と、免許証、クレジットカードなどが入っていた。

実は、2ヶ月ほど前に仕事を辞めてしまい、失業保険も今は貰えないからお金には少し困っていた。

今まではきちんと交番に届けていたのだが、この時ばかりは魔が差したとしか言いようが無かった。

財布の5万円のうち、2万円を抜き取ってしまったのだ。

周りに誰かいないか辺りをうかがい、誰もいない事を確認してアパートへと帰った。

アパートの階段を上っていると、少し遅れて誰かが階段を上る音がした。

きっと他の部屋の住民だろう。その時はそう思った。

2階の端の部屋の前に立ち、カギを開け、ドアを開けた時だった。

「ちょっといいですか?」

突然後ろから声を掛けられ、驚きのあまり、小さく「ひえっ」と声を出したと同時に振り返った。

そこには、口ひげを蓄えて青のポロシャツを着た40歳くらいの男と、眼鏡をかけた縦縞のシャツを着た30歳前後の男がいた。

これからこの二人を「ヒゲ」と「メガネ」と呼ぶことにする。

ヒゲが

「ちょっと話を伺いたいのですが…。」

と言うと、メガネが

「さっきの財布の事を見てましてね。」

と畳みかけるように言った。

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コメント(2)
  • 最後草

    2022/10/06/10:20
  • 面白かった。

    2023/05/24/15:46

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