トンネルをバックに、そんな説明を視聴者に向けて話し聞かせる。
「今から23年前に、近くに新しい道が出来たことで使用されなくなったこのトンネル。──果たして、本当に幽霊はいるのか?」
700人800人と増え続ける視聴者数を確認しながら、嬉しさから心の中でガッツポーズをする。
怖いもの見たさとでもいうのか、『怖くて無理』なんて言いながらも皆んな心霊モノが好きなのだ。自分では行けない心霊スポットも、代わりに誰かが行ってくれるとあらば視聴する。
そんな需要があってこそ、俺は心霊配信者として食べていけるのだから有難い。
「それではいよいよ、トンネルの中に入って行きたいと思います……」
ゴクリと小さく唾を飲み込むと、覚悟を決めた顔で画面を見つめる。本当は全くもって怖くはないのだが、これも視聴者の為の演出だ。
ついに1000人を超えた視聴者数を確認すると、トンネル内へとカメラを切り替えてニヤリとほくそ笑む。
(今回も何も起こらなそうだな……)
そんなことを考えつつも、時折り視聴者を怖がらせる演出は忘れない。そんな俺の演出に便乗するかのように、盛り上がりをみせるコメント欄。
「……うわっ! ……今……っ。だ、誰かに足を掴まれたーーっ!!」
実際にはただ躓《つまず》いて転んだだけなのだが、ここぞとばかり怖がってみせれば、『今……、後ろに誰かいたよ!』『俺も見えた!』などと勝手に盛り上がってゆくコメント。過剰な恐怖心とは、実際には存在しないものまで見えると錯覚してしまうらしい。
結局これといって何も起こらないままトンネルの探索を終えた俺は、最後にもう一度トンネルの前で立ち止まると画面に向かって話しかけた。
「……っ、ここは、本当にヤバイ……。早く帰りたい……。今日見に来てくれた皆さん、本当にありがとう。一刻も早く、ここから離れようと思います……。それではまた──無事に帰れたら会いましょう」
疲れた表情を浮かべながらそう告げると、俺は1時間ほど続けた配信を終了させた。
実際、わざと怖がったり悲鳴を上げたりするのはとても疲れる。けれど、終了間際の閲覧数が2000人を超えていた事実に、俺は配信を終了させたと同時に歓喜の雄叫びを上げた。
「よっしゃーー!! 2000人超えっ!!!」
期待以上の閲覧数に満足気な笑顔を浮かべると、俺は軽やかな足取りで車へと乗り込むとその場を後にしたのだった。
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