これは5年程前の、まだ俺が大学生だった頃の話し──。
大学三年の夏休み。H県O市へとやって来た俺は、日中は浜辺にある海の家でアルバイトをしながら、それが終わると趣味であるサーフィンに興じるという夢のような毎日を過ごしていた。
人魚伝説の残るこの地は観光スポットでもあり、澄み渡るほどに綺麗な海を目当てに連日のように沢山の人達で賑わっている。
そのお陰もあるのかちょっとハメを外す若者も少なくはなく、ナンパから仲良くなったのであろう男女の姿がチラホラと見える。
そんな光景を横目に波打ち際へと向かった俺は、脇に抱えていたボードを浜辺へと突き立てると海を眺めた。
(今日はいい波が来てるな……)
絶好のサーフィン日和に満足気に微笑むと、そんな俺の横で足を止めた直哉は口を開いた。
「いい波が来てるな」
「……そうだな」
そんな返事を返しながらもチラリと直哉の方を見てみれば、嬉しそうな笑顔を浮かべながら目の前の海を眺めている。
「よしっ。じゃ、早速入るか!」
「だなっ!」
ニカッと笑って見せた直哉に向かって笑顔で返事を返すと、俺達は横並びになってパドリングを開始する。
直哉とはまだ出会って一週間程の仲だったが、俺と同じくサーフィン目当てで他県からやって来た直哉とは、趣味が同じで歳も同じだったことからすぐに意気投合した。日中は汗だくになりながらも一緒にアルバイトに励み、それが終わればこうしてサーフィンをする。
そんなパートナーと出会うことの出来たこの夏は、間違いなく一生の思い出となるだろう。
直哉と共に沖へとやって来た俺は、ボードに座るとその場で波待ちをした。
「──なあ! 知ってるか? この海、人魚が出るらしいぞ!」
「……らしいな!」
少し離れた場所に居る直哉に向かってそう返事を返すと、ニヤリと微笑んだ直哉が再び口を開いた。
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