誘いこまれた川
投稿者:ぴ (414)
そう水の中に人がいて、その子の足首を握っていました。
その子は気づいてすごくがむしゃらに手を振り払おうと暴れていましたが、ぐんぐん引きずり込まれて、あっという間に水底に見えなくなりました。
私はこれを見て、怖気が走りました。
すぐに水中に出て、「あの子が引きずり込まれた」と友達2人に叫びました。
助けなきゃという気持ちは不思議なほどなかったです。
それよりも何よりも今すぐにでもここから逃げなきゃという危機感を感じました。
私たちは無我夢中で、来た道を引き返しました。
そして気づいたらあの脇道に入る場所に戻ってきていました。
3人でぜーぜーと言いながら顔を見合わせました。
そして安心したら、友達を一人見捨てて置いてきてしまったことに大きな罪悪感が芽生えました。
でも私は次の瞬間に言われた言葉に、声を無くしました。
泣きながら置いてきてしまった友達にごめんという私に、「でもあの子って誰だった?」と友達が聞いてきたのです。
酷い言い草に一瞬怒りかけて、私は我に返って思いました。
「あんな友達いたっけ?」とそう思ったのです。
私たちが振り向くと、脇道だった場所はさわぁっと揺れる草木が足の踏み場がないくらい群生していました。
さきほどまで通ってきた脇道は振り返るとその姿を消していたのです。
私の仲良かった友達を思い出してみたら、目の前にいるM男とK子の2人だけでした。
最初から3人ではなく、2人だったのです。
いつからか記憶が修正されたかのように友達が3人いると思い込んでいました。
けれど脇道に誘ってきたあの子の名前が出てこないのです。
私たちは二度もあの子に同じ川に誘いこまれていたのかもしれません。
私を引き留めてくれた未来がいなかったら、私はあの子に誘われるままに飛び込んで、今ここにいなかったかもしれません。
戻ってこられて良かったと心から思いましたし、あれ以来泳ぎに行くのが怖くなりました。
その後聞いた話ですが、昔あの辺りには大きな川があったそうです。
しかし、子供が溺れる事故が相次いだせいで、危険と判断して埋め立てられたと聞きました。
今はもうないその川が私たちは誘い込もうとしたのかもしれません。
無事に帰ってこられた奇跡に感謝したいです。
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