枝女
投稿者:A (4)
後部座席に座る俺はリアガラス越しに後方を確認し、女が遠ざかり闇夜に紛れていくのを見送った。
まさか山道に侵入してすぐに折り返す事になるとは思いもしなかったが、奇妙な女に遭遇するといったアクシデントはレアケースだろう。
酒の肴にはなるが、今はちょっとばかし恐怖心が残っている。
「いやあ、ちょっと怖かったな、アレ」
Cが楽し気に語るので、俺も「あれは流石にビビるわ」と引き笑いした。
しかし、Bだけは特に何も口を開く事もせず、黙々と運転を続けていたので、隣のCが「Bってそんなビビりだったっけ」と茶化していた。
するとBが神妙な面持ちで固く閉じた口を開く。
「……お前ら、あの女の顔見たか?」
見たかと問われればそういえばしっかりと表情を捉える事は出来なかった。
何となく、ぼんやりと、輪郭というか女性だという事だけが認識できる程度しか記憶にない。
Cも似たようなもので、恰好とか背丈は記憶に残っているが、表情までは鮮明に覚えていないようだ。
「何か気持ち悪かったんだよ。頬なんかすげえ痩せこけててさ、口もなんかおちょぼ口みてえに小さく突き出てて、それなのに笑ってんのか口角が吊り上がってんの。そんで目がヤバかった。黒目がでかい。つーか、殆ど黒目。あー、思い出しただけで気持ちわりーわ!」
Bは話している間本当に気持ち悪そうに表情を歪めていた。
Bがここまで怖がるのも珍しく、ましてや俺達もあの女には違和感しかなかった事から妙に静まり返った。
まさか幽霊だとは誰も言い出さないものの、それに近い感覚を無意識に覚えてしまったのかもしれない。
暫く三人とも無言で下山していると、沈黙を破ったのはCだった。
「……なあ、もし本当に彼氏に置き去りにされた人だったらどうする?」
「それは――」
Cはあの女が山に置き去りにされた可哀相な被害者だと想像したようで、俺とBもその可能性に後ろ髪を引かれていなかったとは言い切れない。
しかし、だとしてもあのコートはおかしいと思うし、置き去りにされたならBとCが声を掛けた際に助けを求めればいいだけだろう。
「こっちは声を掛けたんだし、置き去りだったらそれなりの反応があるだろ」
「まあ、そりゃそうか」
俺の意見に納得したのか、Cは再び黙り込んだ。
すると、今度はBが口を開く。
「なあ、アレ見えるか?俺だけ見えてるわけじゃないよな?」
と、何やら必死に問いかけて来るので、俺とCは「何が?どれ?」と前のめりにフロントガラスを覗き込んだ。
Bが顎先で指し示した前方へと目を凝らすと、進行方向の遥か先にヘッドライトが何かを映し出しているのが分かった。
緩やかな下り坂だが、ほぼほぼ直線状に伸びた土道の先、電柱の様な細長い物が佇んでいるではないか。
来た時に道のど真ん中に木でもあったか?
こんなど真ん中に木があったら上りの時に気付く筈だが。
最後の一言は「ナ」かもしれない…
「最後の一言は「ナ」かもしれない…」
だといいですね。
あえて最後の主hン巻を言わないのがいい恐怖感が出ていい。