枝女
投稿者:A (4)
しかし、俺達三人は怪訝そうにそのシルエットを見つめたまま沈黙する。
「……さすがにコートは暑くね」
Cがそんな感想を漏らすのは至極当然だった。
今の季節は梅雨明けの夏の入口。
気温は25℃を下回るが半袖で漸く涼しいくらいの感覚。
いくら真夜中の山に訪れるとは言え、この時期に厚手のコートは拷問に等しい。
「声かけてみる?」
いつまで経っても車の前から動こうとしない謎のシルエットに声を掛けるべきかと問うB。
この時は「ちょっと不気味だな」程度にしか思っていなかった俺とCは、Bの提案に深く考える事もなく頷いた。
するとBは運転席の窓を開けて身を乗り出すと、
「すみませーん、どいてもらえますかー?」
大きな声で前方のシルエットへ声を掛けるB。
すると、そのシルエットは次第に顔をゆっくりと持ち上げると、対面の俺達へと視線を向ける。
長髪を真ん中で分けた女性の顔が覗くと、俺達は益々「こんな所で女性が一人で何してんだ?」と訝しんだ。
もしかして彼氏にでも置き去りにされたのかと思い、次にCが助手席の窓から身を乗り出して声を掛ける事にした。
「こんな所でどうしたんですかー?」
しかし、女性の反応は芳しくない。
生気の無い表情、若干上目遣いする様にこちらを睥睨するだけだ。
俺達は互いに顔を見合わせ「ちょっとあの人おかしね?」なんて小言を交わしていたら、Bが「うおっ」と小さく慄いたので前へと顔を向ける。
すると、女性の体の四肢の結合部、両肩の辺りがもこもことコートの下からでも一目瞭然な程に膨れ上がっていた。
その度に女性がビクビクと痙攣するように小刻みに震えているのはかなり気持ち悪く、俺達は呆気に取られて見つめていた。
すると、突然車が後退したかと思えば、Bがすかさずバックで切り返している事に気付く。
だが、車の切り替えしなんて端から見ればかなり悠長な光景だ。
車内が左右に揺れ動く振動に耐え切れずにシートを掴んでいると、不意にあの女がこっちに歩み寄って来る姿が目に入る。
「あいつこっち近づいてきてる」
「マジ?」
俺が端的に告げると、運転していたBはハンドルを回しながらチラリと女の方を一瞥する。
「…うぇ!ヤバイヤバイ、顔ヤバイって!」
女の顔を見たBは表情を強張らせながら早口でまくし立てる。
車を切り返し発進させると、女との距離がみるみる内に離れていく。
最後の一言は「ナ」かもしれない…
「最後の一言は「ナ」かもしれない…」
だといいですね。
あえて最後の主hン巻を言わないのがいい恐怖感が出ていい。