枝女
投稿者:A (4)
しかし、Bが気づいたおかげで衝突事故は免れた。
「あっぶねえな。初見殺しだな」
Cがそんな事を言っていたが、距離が近づくにつれてそれが木ではない事が分かり、その正体が鮮明になるにつれて俺達の表情から余裕が失われていった。
「なあなあ、あれって……」
「マジかよ。えっ、何で…え」
それぞれが動揺するのも当然、木だと思っていたシルエットは先ほど山中で遭遇した女性だった。
それもやけに背丈が細長く伸びていて、コートの裾から枝の様な四肢が飛び出している。
身長二メートル以上はありそうな風貌で、その女性はこっちに体を向けて直立していた。
その何メートルか手前でBが急ブレーキを踏み込むと、俺の体がシートにめり込むようにしてぶつかった。
ぶつけた鼻頭を抑えつつも顔を上げると、フロントガラスを覗き込んでいる女と目があう。
「うっ……」
Bが言ったように、大きく広がった黒目の双眸に痩せこけた頬。
そしておちょぼ口の様に小さな口がこれでもかと吊り上げられて、無表情ながら女が笑っている様に見えてならず、本当に気持ち悪かった。
更に気持ち悪いと思ったのが、女の首だ。
コートの襟元からキリンの様にヌーっと伸び切った首は枝と見間違える程細く茶色かった。
そして、俺達が息を呑んで黙りこくっていると、女は魚の様に口をパクパクさせ、運転席のB、次にC、最後に俺の順番でじっくり観察する。
時間にして僅か一分にも満たないのだろうが、俺には何時間もこうして対面しているとさえ感じられた。
まさに捕食される寸前の小動物にでもなった気分だ。
そして女の口が今度ははっきりと動かされる。
一音一音を口の動きだけで読み取れるように、はっきりと三回動かした。
三文字の言葉を述べた後に笑みを浮かべる。
そしてまた三文字の言葉を浮かべて再び笑う。
この意味があってないような動作を何度か繰り返した後、女はスーッと首を引っ込めたかと思えば、ゴキブリの様にサササっと雑木林の中へと消えていった。
その光景を唖然と見送る俺達。
最早意味が分からない。
そんな感情させ沸き立った俺達だったが、次第に正気を取り戻すなり、全員が大きく安堵の溜め息をついてシートの上でだらりと倒れた。
倒れたと言ってもこれは緊張の糸が解けただけで、別に気絶したわけではない。
あの女の眼力はかなり精神を引っ張られる程に強力で、気持ち悪かった。
それから解放された俺達の力が抜け落ちるのも無理はないだろう。
「……俺ちびったかも」
最後の一言は「ナ」かもしれない…
「最後の一言は「ナ」かもしれない…」
だといいですね。
あえて最後の主hン巻を言わないのがいい恐怖感が出ていい。