山の祠
投稿者:煙巻 (8)
その年の冬、本来なら新年にも爺ちゃん達に会いに行くんだけど、今年は俺のせいで帰省する予定はなかった。
ただ、その代わり電話で挨拶は大丈夫だったので、俺は爺ちゃん達と電話で新年の挨拶を済ませた。
「あけましておめでとう。元気しとるかね」
「あけましておめでとう。普通だよ」
「そりゃよかったよかった」
電話越しにも伝わる爺ちゃん達の喜び様に俺はどこか複雑な心境だった。
婆ちゃんと話した後、爺ちゃんとも世間話をするんだけど、俺は子機を握り絞めて自然体を装って自分の部屋に向かった。
実は両親の目を盗んで前々から爺ちゃんに聞いておかないといけない事があったからだ。
「あのさ、爺ちゃん。山の中に祠あるよね」
俺はそう切り出すと爺ちゃんは押し黙った。
だけど俺は構わず、あの時の体験を赤裸々に語る。
祠から見た事も無い生き物が出てきて追いかけられた事。
その異形な構造をした姿を見た事。
全てを話すと、爺ちゃんはため息をついていた。
そして、爺ちゃんは幾分か落ち着いた声であの正体を教えてくれた。
あの祠から出てきたものは「女螻」と書いて「にょろう」と呼ぶらしい。
正体自体は不明だが、爺ちゃんの幼少時代から目撃談が相次いでいた事で有名なよくわからない存在で、当時から幽霊だの妖怪だの騒がれていたらしい。
目撃談と言っても、見たものは大体村単位で一人居るか居ないか程度。
それが大体一つの世代に一人か二人の割合で出るようで、爺ちゃんの友達も目撃したという。
ただ、その友達は目撃談を語った半年後には村はずれの池に浮かんだ状態で亡くなっているのが発見された。
池の周りは粘り気のある泥が広がっていて、そこに何かの生き物らしき足跡と見るべきか手形と見るべきか、よく分からない痕跡がこれでもかと付けられていた。
一見溺死に見えたそれは他殺の可能性もあるとして賢明な捜索が続いたが犯人の特定はできなかった。
そんな不可解な事件が当時は何件か起こり、何れも犠牲者は亡くなる以前に「山の中で変な生き物を見た」と語っていた事から、これはその祟りだと広まり、やがてあんな辺鄙な所に祠が建てられたらしい。
そして何十年とたった今、村も過疎化してきてあの山に近づく人間が物理的に居なくなるとめっきりと噂は途絶えていった。
偶に県外から来た人間があの山で心霊体験したと騒ぐ事もあったが、その人たちが帰った後に訃報が飛び込んでこなかった事から、もしかしたら「女螻」を見ても県外に逃げれば無事なのではと、当時を知る爺ちゃんの世代は納得した。
そして、あの山には爺ちゃんのご先祖の墓所がある事から、爺ちゃんは墓守のついでにあの山に立ち入る人間が居ないか見張るという役割を務めていた。
俺の両親も爺ちゃんから女螻の話を聞いて話半分で覚えていたらしいが、今回の爺ちゃんの反応を見てちょっと怖くなって従ったらしい。
それに俺に害が及ばない為にしてくれているし、風習みたいなもんだと割り切って両親は爺ちゃんの許可が下りるまで母方の実家に俺を連れて行かない様に決めたそうだ。
因みに、これまでの過去、女螻を見た人の中に御祓いとかの類を全部やってみた人が居たそうだが、何れも効果は無いのか目撃した後もあの地に住み続けた人は不幸な亡くなり方をしている。
しかし、あの地から離れた人は特段何も起きないみたいで、仮にただこの地を離れるだけで事足りるなら無理に御祓いをして女螻の恨みを買うよりかは何もせずに此処を離れるだけにした方が良いと爺ちゃん達は判断した。
そして、今の所その通りにした俺には何も変わった事は起きていない。
こういう王道なの待ってたよ
なんだかんだ
「お前、あそこ行ったんか!」みたいなのってベタかもしれないけど面白い
八尺様的な
そんなに危険なら始めに教えておけよ
あるあるだね
なんかSCPのシャイガイ想像した
この手の話は危険なのに、何故か何も教えずに、
近づくなとか、余計な事は知らなくてもいいとかしか言わんよな。
結果、好奇心から悪い結果になるパターン。
とても良かったです!他の方も、先に教えておけば…と書かれていましたが、逆に教えてしまうとそれこそ好奇心だったり、確かめに行きたい!と思って行ってしまう人のほうが多いのでは?大人だからこそ話半分で聞けることも、子供にとってはそうじゃないでしょうから。
古き良き『〇〇、あそこにいったんか!!』が聞けてよかった