無敵の人を生み出さないための必要悪

「ああいうのを真に受けるのは一部の底辺だけだ。現政権に打撃を与えるほどじゃない。だから、捨て置いて問題ない。政府はああいうのを真に受けて希望を持ってくれることに期待しているんだよ」

「希望を持ってくれることに期待？」

「そう。たとえば奴らは、今、低所得なのは貴方のせいじゃない。政治が悪いんだってよく言うだろ。すると、底辺な奴らは真に受けてくれるんだよ。そして、○○党の信者になってくれる」

「いや、○○党の信者になるのはマイナスじゃないのか？」

「無敵の人になるよりはマシさ。無敵の人ってのはどういう奴のことを言うか知っているか？」

俺は頷いた

無敵の人っていうのは、世の中が嫌になって破れかぶれになって無差別に人を襲うような、そういった人たちだ

「自分の生活が嫌になって犯罪に走る奴は相当数いる。その人たちの一部でも適当なことをいうインフルエンサーを信じて、『そうか。俺がこんななのは政治が悪いんだ』と思って、政治活動に走ってくれた方が監視しやすいんだよ。政治的な過激派がどういった行動ををするかっていうのはノウハウがあるからな。だが、無敵の人はなかなか制御しづらい」

「無敵の人になるよりは、政治的過激派になってくれた方がマシってことか」

「そうそう。だから、そういうインフルエンサーは潰さないのさ。あちこちに散らばっている危険な底辺を集めてくれているんだからな。メリットの方が大きいんだよ」

友人はそこで、ぐびっとビールを飲み干した

「でも、そいつらは騙されてるじゃないか。そのインフルエンサーの通りに政治が変わっても、その人は救われない。その人が頑張らない限りはな。ちゃんと事実を伝えるべきなんじゃないのか？」

「事実を伝えてどうにかなるのか？」

友人の声が冷たく響いた

「ずっと非正規雇用で職を転々としていて、ギャンブルにはまって借金もある君も政治が変われば正社員になって家族を持てるようになれるって？　なれねぇよ。でも、じゃあ、それを突きつけたら、そいつは救われるのか？　いいんだよ。どうしようもない底辺は嘘っぱちの希望でも与えて夢見させればさ。それでそいつがハッピーなら問題ないだろ。最後まで夢見てればいい」

ケケケケ

また彼は笑った

「一番の理想はな。無敵の人予備軍が〇〇党の信者になって、警察が見ている中でのデモ活動で『○○はやめろーー！』って喉を枯らしてそれでクタクタになってくれることだ。その後、ナイフを握りしめて無差別殺人なんて起こせないだろうからな。
それでその○○党が力を持ったら不味いが、そのデモ活動が熱すぎるせいで多くの人たちには引かれてずっと低支持率のままだ。その心配はない。
あとは予備軍の連中が老いて、そのまま四畳半の汚いアパートで冷たくなってくれればそれでいい。とりあえず、氷河期世代がジジイになるまではインフルエンサーたちには頑張ってもらわないとな」

俺はここまで聞いて、頭が痛くなってきて、飲みを切り上げた
奴はずっと笑っていた

皆も気を付けてくれ
誰かを信じて、そいつの考えに同調するのが悪いとは言わない
だが、自分自身で考えるのを忘れないでくれ
じゃないと、いいように扱われるだけだぞ