「……確かに息子様とお電話致しました。ですが……その……」
歯切れの悪い担当者に俺は若干業を煮やして詰め寄る。
「俺、たぶん幽霊見た気がするんですけど、よく覚えてないんですよ。何か知りませんか?」
俺が真剣な眼差しで向き直ると担当者も観念したのか、何度か長い息を吐いて応えてくれた。
「実はですね……」
担当者の話はこうだ。
あの夜、担当者が事務所で作業をしていると一本の電話が入った。
こんな時間に電話?と思ったが、今晩は俺が宿泊していたことから何かあったのかと思い至りすぐに電話を取った。
「はい、○○でございます」
担当者が耳を傾けると、何やら吐息がぶつかったような小さな雑音が聞こえ、次第に誰かの声が遠くの方から聞こえてきたそうだ。
掠れた男の人の声で「…電話…して」と三回ほど繰り返すと、その電話は一方的に切れたという。
担当者は、俺が寝ぼけていたのか、はたまた本当に何かあったのかと不安になりながらも、とりあえず折り返し連絡を入れてみると今度は普通に声色の良い俺が電話に出たので用件を訊ねた所、何か様子が変に思えた。
そして、俺が突然悲鳴を上げたかと思うと返答が無くなったので、これは本当に何かあったと思いすぐに部屋に駆けつけた。
担当者が部屋にやってくると、ドア越しにノックしても反応がない事から合鍵で解錠し「○○様、失礼します!」と建前上一言断りを入れて立ち入ると、消灯したリビングの中で何かがスーッと動いたのを目撃してぎょっとする。
すかさず入口横にある照明スイッチを押して明かりを灯すと、室内の至る箇所に光が差し込み視界が広がる。
しかし、今しがた横切った影は何処にも見当たらなかった。
「……○○様?……失礼します」
担当者は恐る恐る部屋に上がり込むと、リビングに俺が居ないのを確認して寝室を覗き込む。
するとそこには布団も掛けずに子機を握りしめて倒れるように眠る俺が居たそうだ。
一見して死んでるように倒れていた事からまさか転んで頭でも打ったんじゃないかとかなり焦ったらしい。
「だ、大丈夫ですか!しっかりして……」
しかし、担当者が俺に駆け寄ろうとした刹那、異様な悪寒が背筋を走り立ち止まる。
窓は閉じているし空調で風が吹き込む事はない。
にも関わらず、首筋に生暖かい吐息の様なそよ風が当たっている。
ゴクリと生唾を呑み込みゆっくりと振り返ってみると、ちょうど白い布がまるでハンカチを落としたかのようにフワリと床へ落ちていくのが見えた。
担当者は布地から寝台、寝台から祖父の遺体へ視線を辿るが、如何様にして布が落ちたのか理解はできなかった。
ただ、こんな時でも職業柄か、露となった祖父の顔に覆布を被せて上げようと拾いに行き、片膝をついた時だった。
『死にダクなイよおおお』
と、喉に水が詰まったようなくぐもった声が耳元で囁かれた。
その後暫く腰を抜かして放心状態で居たらしいが、我に還った後はちゃんと覆布を祖父に被せ、死んだように眠る俺を布団まで引き摺り毛布を掛けてくれたそうだ。
























おじいちゃんの未練かと思いきや…
面白かったです
おじいちゃんは亡くなっても優しかったね
「おう、○○。元気してたか」
「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」
この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。
最初に会ったのは母だけど会話部は次に葬儀場で会った安心した表情の父としたものと考えてもおかしくは無いと思う。それより通常の葬儀(火葬まで4日程度)で防腐処置までするというのは聞いたことがないので驚いた。地域性?なのかな。