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心霊

寇さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

未練の悪戯
長編 2022/06/06 22:27 50,345view
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ここまでを顔面蒼白になりながら語ってくれた担当者は、

「……本来は、この様なこと御親族様にお話する事はないのですが」

と、申し訳なさそうに頭を深々と下げる。

しかし、俺もその夜に恐らく同じ恐怖体験をしていた事から責める気にもならず、やんわりと「気にしないで下さい」と頭を上げさせた。

ただ、俺には二つだけ疑問が残っていたのでそれだけは聞かずにはいられなかった。

「因みに、あの夜…九時過ぎ頃に部屋に来ましたか?」

「……いえ、当日は葬儀の準備がございましたので、その…夜中の電話を頂くまでは従業員も恐らく訪ねてはいないかと」

俺の質問に思い当たる節が無いからか、担当者は悩ましげに記憶を辿ると首を横に振る。

俺は続けてもう一つの疑問を訊ねた。

「……うちの祖父の前はどんな方が利用されたか聞いても大丈夫ですか?」

担当者は少しだけ表情を曇らせると、喉に引っ掛かったものを吐き出すまいと堪えていたが、今より声のトーンを押し殺して口を開く。

「……○○様の一つ前に御利用された方は縊死でございました」

担当者が頭を下げたタイミングで両親が戻ってきたので、俺は怪しまれないように「お世話になりました」と担当者にお辞儀する。

こうして俺は祖父の遺骨と遺影と共に車に乗り込むと、葬儀社を後にした。

これが俺が葬儀社で体験した不思議な出来事だ。
祖父の死に充てられて見た幻覚か、それともただの夢の話なのかは分からない。

ただ、担当者の話が本当なら俺はあの夜何かを見て気を失っていたのだろう。
そして、風呂に入っていた時に目撃した磨りガラス越しの人影。
あれだけは紛れもない現実のものだ。

もしかしたら祖父の前に利用した縊死したと言う人の未練が悪戯していたのかもしれない。

だとすれば、夜中に担当者に電話をしたのは祖父かもしれない。
俺が祖父と勘違いして知らない人を慰めていたから「それは俺じゃない」と訴え掛けていたのだと、葬儀社を去って暫くして思った。

祖父は昔から俺には甘かった。
認知症になるまでは本当に甘かった。

きっと祖父が俺を助ける為に担当者を呼んだのだと、そう思っている。

これからは命日には必ず帰省しようと祖父の遺影を見ながら、そう誓った。

9/9
コメント(4)
  • おじいちゃんの未練かと思いきや…
    面白かったです

    2022/06/07/09:41
  • おじいちゃんは亡くなっても優しかったね

    2022/06/26/11:52
  • 「おう、○○。元気してたか」
    「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」

    この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
    作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。

    2023/11/10/12:22
  • 最初に会ったのは母だけど会話部は次に葬儀場で会った安心した表情の父としたものと考えてもおかしくは無いと思う。それより通常の葬儀(火葬まで4日程度)で防腐処置までするというのは聞いたことがないので驚いた。地域性?なのかな。

    2024/10/16/09:29

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