離れの住人
投稿者:とくのしん (65)
お経が終わると主人は「ありがとうございました」とお布施を渡してきた。
それを受け取り住職は足早に帰った。
その晩、家に帰ると夜中に電話がなったそうだ。出ると無言。
いたずら電話かと思って切るとまたすぐにかかってきた。
再び出るも無言。時計を見ると午前2時。たちの悪いいたずらだなと思い、寝床に戻ると外から男の叫び声が聞こえたそうだ。
何を言っているかわからないが何かを叫んでいる。
すると叫び声が笑い声に変わったそうだ。その男は笑いながら境内を走り回っている様子。
キチ〇イでも迷い込んだかと思い、竹ぼうきをもって境内に出ると誰もいない。
住職の父親もただ事ではないと起きてきたそうだ。
先代も住職に何か悪いものでも連れてきたんじゃないか?と尋ねてきたので、Mさんの家に言ってきたことを説明した。
先代も代々Mさん宅のことは知っているが、離れの人間のことは知らないという。
とりあえず寝ることにした。
次の日、Mさん宅を先代と二人で尋ねた。Mさんに実はお寺でも妙なことが起きたと説明すると、Mさんは住職たちに謝罪してきたという。
檀家である以上、誰かが亡くなったならお寺で供養してもらうのが筋、しかし今回亡くなった遠縁というのは、Mさんの腹違いの兄だというのだ。
Mさんの父親は地元では出来た人と評判だったが、表向きとは別に裏ではかなり遊びが激しかったそうだ。
博打や女、たびたび問題を起こしてきたが、そのたびに金で解決してきたという。
離れに住んでいたのは、隣町に住んでいた女に産ませた子供で、男だったこともあり跡取りに考えていたそうだ。
ところがMさん父に縁談が舞い込み結婚。すぐにMさんが生まれた。
跡取りに考えていた妾の子供は成長するにつれおかしいことに気づいた。今でいう統失だったそうだが、由緒あるMさんの家に入れるわけもいかず妾に手切れ金を渡して、関係を終わらせようとした。
しかしその妾が納得せず、子供を認知するよう騒ぎ立てた。
Mさん父はだんまりを決め込み、女は日に日に捨てられたと狂乱するようになった。
半年ほどで静かになったと思ったところ、女は気がふれていたそうな。
これ幸いとMさん父は安堵したそうだが、統失の子供を抱えて将来を悲観したのか、それから10年ほど経って子供と近くの川に心中をした。
母親は亡くなったが子供は生き残った。
さすがに不憫に思ったMさん父は、その子供を離れに隔離して育てたそうだ。
その子供は離れから出てくることはなく、3度の食事はMさん母が玄関に置いたそうだ。
食事が終わると食器が外に置いてあるので、それをMさん母が片付ける。
季節ごとに衣類を段ボールに入れて、同じく玄関に置いて渡していたそうだ。
Mさんもたまに食事などを届けに言っていたそうだが、最後まで口を聞くことはなかった。
たまに玄関の戸の隙間からこちらを睨むように伺うことがあり、その目つきが怖かったと言っていたそうだ
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