この世のものとは思えない光景
投稿者:とくのしん (65)
私は咄嗟にその場を去る口実を嘯き、離れることにしました。一刻も早くその場から逃げたかったからです。
旦那に「本当に今までありがとうございました。」と深々と頭を下げて振り返ることなく逃げ出しました。
あれからしばらくして、Aさんが気になって行ってみると家からは人の気配がなくなっていました。
そのすぐ近所で新聞を取っている購読者がいたので「近所のAさん、引っ越しでもされたんですか?」とさりげなく訊くと
「新聞屋さん知らないかい?Aさんの奥さん亡くなったのよ」
と聞かされました。
Aさん宅には孫が3人いて、小学校低学年・4~5歳、2~3歳くらいの女の子がいました。
いつもAさん夫婦とその孫3人でいたため、その子たちの両親は共働きかと思っていましたが、父親というのが数年前に刑務所に入っていて、その後母親は子供を置いてどこかに行ってしまったそうです。
奥さんが亡くなったあと、旦那も入院したとか亡くなったとかで、孫3人は施設に入れられたそうです。
その話を聞いて孫たちのことが不憫に思いました。
無責任な言い方ですが、ただただ可哀想としか言葉がでませんでした。
金払いが悪くなったときについ語気を荒げてしまったこともあって、その場にいた孫たちが困った顔をしていたのを思い出して後悔したものです。
こちらも仕事とはいえ事情を知っていればもう少し違う言い方ができたろうに、と歳を取った今だから感じます。
あれから10数年経って、あの孫たちはどうなっているだろう?と、Aさん宅の近くを通ると考えることがあります。
Aさん宅は廃屋となった今でも、当時の雰囲気を残したままひっそりと住宅地に佇んでいます。
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