これはかなり前になりますが、私が高校を卒業し、地元から離れた専門学校へ通うことになった頃の話です。
同じ専門学校へ行くことが決まっていた友人とルームシェアすることになり、二人で部屋を探そうと、ある不動産会社へ行きました。その会社の方はとても親切で、条件に合った物件を数件ピックアップすると、内見の時も丁寧に案内してくれました。
4件ほど内見し終わった日の夜。友人とどこにするか話し合ったのですが、その内1件だけ、二人とも一切触れない物件があったのです。その物件は内装もきれいでしたし、二人で住むには十分すぎるほどの広さで、立地も悪くなく、家賃も予算内で何の問題も無かったのですが、なぜか二人とも、そこの話をするのを避けていました。
それに気づいた私は、思い切って友人に聞いたのです。「そういえば、あの部屋は?全然話してないよね?」と。
すると友人は微妙な表情になり、「あー…。あそこはないかな」と答えました。理由を聞くと、「よくわからないけど、なんだかあまり住みたくない」。私は不思議な感覚になりました。なぜなら全く同じ感想を私も抱いていたからです。
条件から言ってもその部屋は最終候補として残って当然のはずが、どうしても住みたいと思えないのです。それを友人に伝えると、友人も少し驚いた様子で私の言葉に賛同してきました。
不思議に思いながらも私たちは、その物件以外から住む部屋を決めることに。
専門学校へ通い始めて数か月後、私は新しく学校でできたその街が地元の友人に、ふと思いついてこの話をしてみました。
詳しい場所を聞いた途端、彼女の顔色がさっと変わったのをよく覚えています。
「そこにしなくて良かったよ、ほんと」
詳しく聞くと、例の物件があるあたりには昔大きな病院があって、戦時中は野戦病院として機能していたそうなのです。空襲などで大怪我を負った人たちがたくさん集められ、亡くなった人も相当いたらしい、と。
「今でもあの辺りは、出るとか見たとかよく聞くから」
彼女の話を聞いて背筋が寒くなると同時に、私は納得しました。私も一緒に住む友人も、特に霊感があるわけではありません。それでも感じた、「ここには住みたくない」という感覚。それはよほどのことだったのでしょう。
怖がりの友人にはこの話は教えませんでした。しかし十数年経った今でも、会えばたまに「あの部屋って何だったんだろうね」と話題にのぼります。
それほど友人にとっても奇妙な体験だったのでしょう。
次にその話題が出た時は、教えてあげようかと思っています。
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