門外不出の地獄絵図
投稿者:くやり (24)
Aはしきりに感心しています。次の瞬間、その目が驚愕と当惑に見開かれました。
「おい、今動かなかったか?」
「何が?」
「地獄絵図の端の……この鬼だ」
友人が指さす隅にはなるほど、真っ赤な鬼がいました。しかし私は本気にせず、どうせまた悪ふざけだろうと決め付けます。
「やめろよ、悪趣味だぞ。みんな怖がってるじゃないか」
「本当だって、この目で見たんだ!」
友人が甲高く声を張り上げ、一同がざわめき始めました。
「確かに動いた」
「一歩前に」
「顔も動いてない?だんだん正面に」
「やだ、目が合った!」
ヒステリックな阿鼻叫喚の渦の中、鬼の顔がゆっくりと正面に向き直り、蝋燭の炎に煌々と炙り出されます。
「きゃああああっ!」
最前列の女性が突如立ち上がり、障子を開け放って逃げ出します。それを合図に他のメンバーも浮足立ち、蝋燭を蹴倒して本堂の闇を逃げ惑いました。
私は自分が見たものが信じられませんでした。地獄絵図といえどもただの絵です、平面に描かれた鬼が動くわけありません。暗闇の中で見間違えたのです、そうに決まっています。
なのに何故か声が出ず、私の耳には轟々と渦巻く炎の音や老若男女の絶叫が聞こえてくるのです。
「助けてくれええ」
「後生ですからどうか」
悲鳴は床の間から、地獄絵図を飾った壁の方から聞こえてきました。轟々と熱風が吹いてきます。
「何してるんだ、しっかりしろ!」
Aが耳元で怒鳴って私の手を掴みます。しかし動けません、恐怖で頭が痺れています。百物語の会を許可したのは間違いだった、地獄絵図を見世物にするんじゃなかったと、おのれの軽率な判断を心底悔やみました。
「A、俺は」
刹那、こちらに近付いてくる足音が聞こえました。重く固い金属が床に擦れる音もします。
「ぎゃああああっ!」
凄まじい断末魔が上がり、何かが倒れる鈍い音が響きました。
数秒後、参加者の一人が蝋燭を点け直します。隣には頭から血を流したAが倒れていました。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
即座に救急車を呼び一命はとりとめましたが、Aは頭蓋骨にヒビが入るほどの大怪我でした。
駆けつけた警察は暗闇で起きた不幸な事故で処理しました。ですが納得できません、転んで頭を打ったのなら仰向けでなければおかしいです。Aは誰かに後頭部を殴られ、前方に伏したのです。
絵が動くというのは結構ありきたりだと思うがそいつが出てきて人を襲う(襲ったかもしれないだが)
それが怖い
戦国時代の開基なら「10代目」はおかしいね。
自分の知人の寺は江戸時代初期の開基だが,現在の住職は19代目。
由緒正しい寺の坊さんなら
鬼が出たぐらいで慌てないでくれ頼むよ
こわい