小学校の帰り道
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
僕が住むこの町には、昔からこんな噂話がある。
「〇〇神社の竹藪に行くと、小学生くらいの男の子にものすごい力で引きずり込まれ、二度と戻ってこられない」というものだ。
話す人や年代によって少しずつ内容は違うのだが、あの世へ行くと言う人もいれば、異世界に行くと言う人もいる。
中には、竹藪の中には何かの動物がいて、それは引きずり込まれた子供の変わり果てた姿だという人までいた。
しかも、その動物に餌を食べさせると無事に戻ってこられる、という話まであった。
今思えば子供同士の他愛のない噂話なのだが、小学生にとってはとても怖い話だった。
僕が小学6年生の時の話だ。
当時は、今で言う学童保育など無く、僕の家は学校からかなり遠かったから、学校が終わればすぐに家に帰っていた。
下校する時はいつも数人で帰るのだが、そのメンバーは同じクラスの人もいれば違うクラスの人もいる。
クラスによって帰る時間が少しずつ違うから、そのメンバーは時々違う。
同じ方向に帰る生徒は大体決まっているから、違うクラスの生徒の顔や名前を覚えるようになった。
それは確か、秋の終わりの肌寒くなった頃だったと思う。
その日は職員室に用事があって帰りがいつもより遅くなった。
今日は一人で帰るのかと思っていたら、校門を出た所で自分と同じくらいの学年の一人の男子がゆっくりと歩いていた。
追い抜きざまに彼の顔を見ると、思いがけず目が合った。
帰りのメンバーにはいない生徒で、おそらく初めて見る人だった。
僕は6年1組なのだが、クラスと名前を聞いてみると、彼は3組の「K田」と名乗った。
どうやら帰りが同じ方向らしいから、その日は二人で一緒に帰ることになった。
特に会話らしい会話も無いまま、道の途中にある〇〇神社の横を通った時だ。
この日は帰りが遅くなったから僕は早く帰りたかったが、K田君は寄り道をしたかったらしい。
「近道だから神社の中を通って行こう。」
僕は下校の時には神社に入ったことは無かったが、そうK田君が言うので行ってみる事にした。
神社の入り口の鳥居をくぐると、その左右にはちょっとした竹藪があった。
K田君は
「こっちだよ。こっちが近道なんだ。」
そう言って僕の手を掴み、鳥居の右側の竹藪へと引っ張っぱっていった。
K田君の手は、季節柄なのか、心なしか冷たい気がした。
竹藪をよく見ると、竹と竹の間には、子供ならかろうじて通れるくらいの隙間があった。
K田君に引っ張られるままその竹の隙間の中を20メートルほど進むと、そこには木造の古い一軒家があった。
「こんな所に家なんてあったのか?」
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