めおとほたる
投稿者:上龍 (34)
子どもの頃、父方の祖父が住む田舎に帰省した時の体験です。
当時の私は昆虫採取が大好きなわんぱく坊主で、夏休み中、野山を駆け回っていました。
お盆が過ぎたある日、一人遊びを許されていた裏山の冒険に飽きた私は遠出を決意し、親には内緒で峰伝いに進んでいきました。
ところが案の定迷子になってしまい、夕暮れが迫る中捕虫網を握り締めて泣いていると、目の前の葉陰にぽわりと光がともりました。
二匹の蛍でした。
生まれて初めて目にする蛍の幻想的な光に魅了され、無我夢中で後を追いました。
蛍は番いでしょうか、近付いては離れてまた寄り添い、仲睦まじく山の奥へと入っていきます。
「待って!」
蛍を捕まえて持ち帰れば家族みんな驚くはずと想像し、期待と興奮で胸が高鳴りました。
蛍に導かれて藪を抜けた私が目の当たりにしたのは、衝撃的な光景でした。
「あっ」
視線の先に無数の光の球が辿っていました。蛍の群れです。何をしているのだろうと興味を覚えて近寄り、心臓が止まりかけました。
蛍がたかっているのは手を繋いで亡くなった男女の死体で、そばに薬の瓶が落ちています。
死後結構な歳月が経過しているらしく、半ば白骨化した死体に怖気付いてあとじされば、最初に私を誘った二匹の蛍が頭の上で円を描いたのち、男女の口の中へ吸い込まれていきました。
その後私は捜索隊に保護され、二人の死体は警察に回収されました。私が見た蛍は、山奥で心中した恋人たちの化身だったのでしょうか。
綺麗なお話ですね