息子が最初に発した言葉

私には遅くできた一人息子がいます。
息子は同年代と比べて発育が遅れており、2歳になる現在まで言葉を発しません。医者に診せても異常はないと言われ、夫と共に気を揉む毎日を送っていました。

「ちーくん、パパ、ママって言ってみて」

いくら懸命に教え込んでも無駄に終わり、徒労感と不安だけが募っていきます。

この子は一生口を利けないままなのだろうか……悲観していた矢先、奇跡が起こりました。息子が突然言葉を発したのです。しかしそれは私の予想を裏切る言葉でした。

「おばーらん」

うちに姑はいません。息子が産まれる前に亡くなっています。
なのに息子は私を通り越して背後の虚空を見詰め、「おばーらん」と舌足らずに繰り返すのです。

私はむきになりパパ、ママと教え込もうとしました。しかし息子は全然聞いてくれず、「おばーらん」のただ一言だけを執拗に繰り返し続けました。

「どうしてママって言ってくれないの！」

育児ノイローゼに追い込まれ我が子に手を上げると同時、憎たらしい姑の笑いが響き渡りました。
弾かれたように振り向けば、背後に姑の霊が立っていました。

「おばーらんしんだ、ままのせい。ままがやった」

息子は私と姑を見比べきゃっきゃっと笑っています。もし夫に聞かれてしまったら……

「何してるんだ！」

息子の口にガムテープを貼っている所に踏み込まれ、離婚を言い渡されました。