人間には意思がある。
嫌なものがあれば、顔をしかめる。
痛ければ声を上げる。
欲しいものがあれば、手を伸ばす。
それだけで、たいていのことは伝わる。
言葉。
文字。
表情。
視線。
身体の動き。
人間は、そうしたものを使って互いの意思を伝えている。
それらが使えなくなったとき、人間は別の方法を探すことがある。
ハンセン病患者が編み出した「舌読」という方法がある。
目が見えなくなっても、手足の感覚を失っても、舌に残された感覚を使って点字を読む。
外から情報を得るために、残された感覚を使う。
映画『ジョニーは戦場へ行った』では、戦争によって四肢を失い、視覚や聴覚、発声能力まで失った主人公のジョニーが、外へ意思を伝えるため、残された身体の動きを使ってモールス信号を送る。
人間は、ときに自分で鍵を作る。
しかし、自分で鍵を作れる人ばかりではない。
知的な発達の違いによって、複雑な方法を自分で考えたり、覚えたりすることが難しい人もいる。
だからといって、意思がないわけではない。
嫌なものは嫌かもしれない。
怖いものは怖いかもしれない。
欲しいものは欲しいかもしれない。
ただ、それを伝えるための鍵を、自分では作れないことがある。
そのとき、鍵を探すのは外にいる人間になる。
けれど、人間はときどき、鍵を探すことをやめる。
「何を考えているのか分からない」
そう言う。
分からないから怖い。
怖いから、関わらないほうがいい。
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