Tホテル
投稿者:砂の唄 (11)
「あの…Jの息子さんはどうなったんでしょうか…」私はやっと口を開くことができた。
「わからんな。俺も詳しくは知らんけど外法で動きを与えられた死体は生前の行動を繰り返すらしい。子どもだから食う、寝る、遊ぶとかでしょうな。」Kは笑うのをやめた。
「Jの車の状態からして、警察に発見される前から数週間車は使われていなかった。君たちも行ってきたからわかると思うが、あそこから人の足で行けるのはY村くらいだ。Y村で聞き込みをしたが、そんな男は見てない、うちの店には来てない、とかJが村に行った様子はない。Y村で泥棒に入られたとか畑が荒らされたっていう話もなかった。だからJは数週間あの別荘にずっとこもっていたと考えられる。あの時大分片づけたが、あそこには物がたくさんあった。食品とかはともかく、こどものおもちゃや本がたくさんあった。別荘の持ち主だったオーナーは独身だったから、Jが持ち込んだんだろう」
「これは推測ですがね」Kが続けて話し始める
「Jはあそこで息子と暮らしてたんでしょうな。そしてずっとそこにいるつもりだった。だけど、限界が来てしまった。物資は有限ですからね。1階のJの死体があった部屋に初めて入った時、食べ残しが床にすごい転がっていてね。ハンバーグみたいな肉の塊だと思ってたけど、いや、肉好きすぎかって思ったね。でも口が空いてない袋は見当たらなかったから、最後は食うもんがなくなったんでしょうね。だから最後の最後食えそうな親父にかみついた。そう考えるとね、一応体の傷も説明がつくでしょう。そのあと?家の中にないってことは外に出て行ったんでしょう。死体は死体で物体ですから急に消えてなくなるなんてことはないでしょうに。」
そこからもいろんな話を聞かされたが、あまり覚えていない。
覚えているのはJがいなくなった当日Jの口座から200万円が何とかという会社に振り込まれていたこととか、当時2階には訳の分からんものが書かれた紙が散乱してたとか。
とにかく頭の理解が追い付かなかった。霊能者?外法?死体が生き返る?信じられるわけがないだろう。Aの叔父さんが警察官だったのは間違いないだろう。そんな人がどうして真面目な顔でこんな話をできるというのだ。わからないことがあまりにも多すぎた。
それから、BはKの仲間にどこかへ連れられて行き、1週間ほど本部で休養させるということをKから言われた。あそこなら大丈夫だろうということをAの叔父さんは言っていた。Kについては警察に頼まれて、凄惨な事故とか事件現場で霊を鎮める仕事をしているということを改めて説明されたが、やはり信じることはできなかった。
Y村では約30年前の山狩りのあとも犬の怪我は続いたらしい。また山狩りをしてほしいと声があがり、もう一度行われたそうだが、それ以来一度も行われていない。猟友会が絶対にやりたくないと拒否をしているらしい。だからY村ではペットは必ず屋内で飼う。夜は散歩に行かないという言いつけが固く守られている。それは今でも変わらない。
「儀式?そりゃ俺も聞いたことしかないから詳しくは知らんよ。けど、外法だからね。図書館で調べてやり方が出てくるもんじゃないし、誰かが引き受けたんでしょうな。3人を誘拐して殺したのもJで間違いないけど、儀式に必要だからと言って指示したのはそいつでしょう。結界も儀式の一環でそいつが貼って、そのままにしといた。素人にできるわけがない。こういう儀式やる奴って大抵、悪徳業者ですからね。こうすれば生き返りますよとか言ってやらせたんでしょうな。今は人形みたいですけど、時間がたてば元の息子さんみたいに話もするし、感情も出てくるようになりますから~とか言ってね。いやーあくどいね。やってることはおもちゃの電池詰め替えるみたいなもんですからね。電池が切れればまた動かなくなるし、修理するわけじゃないから壊れてるとこは壊れたままですよってちゃんと説明しきゃいけない。そう思うでしょ?まぁ依頼人が正しい説明聞いて、それでもいいって言ったなら俺は何も言わんけどもね」
正直今回の出来事で何が本当で何が本当でないのかはわからない。
聞かされたことが本当だとして、
生き返らせたかった息子に食い殺されたJ、
その結果を引き起こすためだけに殺された3人、
今もあのホテルの近くを遊び回っているのだろうかJの息子のこと。
すべてが報われない。
面白かったです
Tホテル、何処だろう。気になる。
ってことは「私」が見た子供って…