あたしは、もにょ
投稿者:タングステンの心 (9)
もうずいぶん昔のことになるのですが、転職する友人を訪ねて都内のアパートから千葉県にある彼の宅に出かけて行きました。ぼくらはまだ三十路前、彼の娘さんはまだ小さくて、あのころはまだやっと三つか四つだったでしょう。年齢のわりにはずいぶんとおとなしくて、とても良い子にしていました。
友人は都内のブラック企業を辞めて、役所に転職したとかいうことでした。住んでいるアパートはちょっと古いけれども、広々としていて、奥さんも子どももいて、いかにも温かいご家庭、という感じで、まだ独り者のぼくには少しうらやましかったのを覚えています。
でも、どんなに幸せそうなひとにも悩みはあるようです。
奥さんが娘さんを寝かしつけに寝室に連れて行き、ぼくと友人はふたりでリビングに残されました。土産代わりに持っていった安物のワインを二人で嘗めるように飲み、ベビーチーズの包みをぺりぺりと剥きながら、ぼくらはいろいろなことを話していました。そのときのことです。彼が娘さんについてふと語りだしたのは。これから書くのは、そのときの彼の話の内容です。
「最近ね、まなの様子がちょっと妙なんだ」
「どうしたのさ」
「誰もいない方をじいっと見てね、こわい、こわいって云うんだよ」
「小さい子って、たまにそういうことあるって云うよなあ。あの子にもそういうことがあるんだ。なにが見えていたんだい」
「それがね、もにょがいるって云うんだよ」
「…もにょ?」
「そう、もにょ。おれたちにもよくわからないけど、とにかくなにかがいる。そのとき、まなは窓の方を見ていたから、虫でもいるのかと思って探した」
「…それで?」
「それがさ、むしさんじゃないって云うんだ」
「ええ…」
「もにょがまどにくっついてる、もにょがずっとみてるって泣きべそかきながら云うんだよ。仕方ないからママがだっこして寝かしつけてさあ」
「怖すぎだろ…」
「でね、それだけでは終わらないんだ、これが」
「どうなったの」
「そのあと、別の日に、部屋で遊ばせてたら、まなが今度は部屋のすみっこを不思議そうな顔で見ているんだ。もちろん、どうしたのって訊いてみたよ。そうしたらさ、もにょがおへやのはじっこにいるって、こう云うんだよ」
「いやいやいや…」
「今度は、どんなの?人間?ワンワン?って訊いてみた。そうしたらな、おんなのこ。かみがながい。おかおはみえないって、ぽつりぽつりと云うんだよ。そんなことが何回かあった」
「毎日いるの、その、もにょっていうのは…」
「いや、何日かに一回くらいらしい。一回部屋の隅に出てからは、窓の外じゃなくて、部屋の隅に立っているところが毎回見えているんだってよ」
「どこの部屋、それ?まさか、ここかい」
「いや、あっちの部屋だよ」
「そうか、それならよかった。もにょといっしょに酒盛りなんで怖すぎるからな。まあ、端っこにいるだけなら、実害はないんだろう」
「それがな、そうでもないみたいなんだ」
「え…?」
友人は、やめたはずのたばこの煙でも吐き出すみたいに、ふうっと深いため息をついてからお土産のワインが入ったグラスを飲み干しました。やけにしいんとした部屋に、ごくっと、彼の喉の鳴る音がやけにはっきりと響きました。
「聞いてくれるか。おれ、もうどうしていいか、わかんなくてさ。でも、誰かに聞いてもらわないと、おれももう耐えられそうにない」
なんとも不気味で面白かった
もにょはお前を見てるぞ<●><●>
もにょは何者…
もーにょもーにょもにょ
お化けの子〜
もにょ・・・・不気味でした。