お気に入りのパジャマの柄
投稿者:misa (11)
「私は殺されたの」
「えっ!?」
殺されたなんて穏やかではありません。藪から棒に何を言い出すんだと驚愕すれば、A美さんは悔しげに顔をが歪め、暗闇に溶け込むように消えて行きました。
以降、「私は殺された」と告発したA美さんの顔と声が脳裏に焼き付いて離れず、独自に調査を開始しました。
そして私は気付いてしまったのです、A美さんが目撃された日に必ず出勤し、患者の手術をしている外科医・K岡先生に。
K岡先生は人格者と知られる病院の権威で、若い医者や看護師たちにも慕われていました。
しかしただの偶然で片付けるには、A美さんが出る日と外科医の執刀日が被りすぎているのです。関係があるかどうか現時点では不明ですが、A美さんの手術を担当したのもK岡先生なのです。
「あの、先生。お話があるんですが」
「何だい?」
「人に聞かれると都合が悪い話です」
数日後……おもいきって先生に声をかけ、人けがないリネン室に連れ込んで話し合いを持ちました。
K岡先生とA美さんの関係を厳しく追及したところ、彼の顔色はみるみる青ざめ、目が吊り上がっていきました。
「A美さん、先生に訴えたいことがあって出てくるんじゃないですか?目撃地点が手術室付近に集中してるのも偶然とは思えません、知ってる事があれば話してください」
必死な面持ちで懇願する私の肩を突如先生が掴み、壁に押し付けてきました。
「たかが看護師が、俺に逆らうのか?」
「まさか先生が医療ミスを……」
K岡先生の切迫した表情が、A美さんの死の真実を鮮明に物語っています。
続いて先生は私をキツく口止めし、マスコミに漏らしたら必ず報いを受けさせてやる、と怖い顔と声で脅しました。
私が精一杯の勇気をふりしぼって抵抗すると、皺ばんだ手で口を塞ぎ、恐ろしい事を言い出しました。
「だったら表に出れない体にしてやる」
次の瞬間……先生の背後に放置されてた、真っ白なシーツが詰まれたワゴンカートがカタカタ揺れ出しました。
先生はこちらを見ていて背後の異変に気付いてません。恐怖と驚きに目を剥いた私の視線の先、ワゴンカートに積み重なったシーツの一枚がふわりと膨らんで人の形をとりました。
シーツの向こうに透けているのは生前のA美さんが好んで着ていたパジャマの柄……入院に合わせ、夫がプレゼントしてくれたのだとのろけていた品です。
シーツにくるまった何かが息を荒げる先生の背後に接近し、耳の裏で囁きました。
「よくも殺したな」
次の瞬間、先生の絶叫が病院中に響き渡りました。続いてリネン室に駆け込んできた医者と看護師によって私は助け出されます。床にはシーツが落ち、中身の方は完全に消滅していました。
その後の調査で医療ミスの隠蔽が発覚したK岡先生は病院を追われました。以降、A美さんの幽霊は現れていません。復讐を成し遂げて満足したのでしょうか。
とても読みやすい文章で面白かったです