蝋燭の火を摘む
投稿者:misa (11)
短編
2022/03/12
22:19
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父方の祖父母が住む田舎には一風変わった風習がありました。毎年盆が近付くと子どもたちが蝋燭を捧げ持ち、神社に奉納するのです。
私は地元の子じゃない為このお役目と無縁でいたのですが、「いい思い出になるしやってみないか」と父に勧められ、ちょっとした好奇心と物珍しさから参加を決めました。
過疎化が著しく子どもの数自体が減少していたのも無関係ではないと思います。
当日は白い直垂をたらし、お稚児さんの格好をさせられました。私の番は最後です。先に出発した子どもたちは1人10分ほどで戻ってきました。参加者は10人ほどですが、それでも全員が終わる頃には夜が更け、不気味な雰囲気が漂い出します。
大丈夫、神社はすぐそこだ。怖くないぞ。
自分に言い聞かせていよいよ出発し、参道の先の鳥居をくぐります。手の中の蝋燭はオレンジ色に燃えていました。
鳥居をくぐってしばらく行くと異変が起こりました。蝋燭の炎が突然青へと変化したのです。
青白く揺らめく火に言葉もなく驚いていると、闇の奥から冷たい風が吹き付けてきました。
その時、目の前にフッと現れた手が火を摘まみました。直後に蝋燭はかき消え、真っ暗闇が訪れます。
すっかり肝を潰して逃げ帰ると、祖父母が抱き止めて宥めてくれました。
「神様のイタズラじゃ。捧げられた蝋燭が明るすぎたのかもしれんな」
大人になってもまだ、あの時の光景は忘れられません。
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