梅雨どきの逢瀬
投稿者:misa (11)
短編
2022/05/01
22:47
987view
紫陽花の植え込みが鬱蒼と茂り始めた梅雨時期のことです。
引っ越したばかりで学校になじめず、うつむいて遊歩道を歩いていると、ふと植え込みの影に女性の足を見ました。
白いワンピースに白いローヒール、雨が降りそうなのに綺麗なお洋服の女性だな、と思ったことを覚えています。
両側が植え込みのため、細い遊歩道ですれ違うのを避けてくださっているのかと思い「ありがとうございます」と言おう――と、顔を上げたのに、そこには誰も居ませんでした。
どんなに見回しても人っ子一人いないいつもの通学路です。ただの見間違いだったろうか、と不思議に思いながら帰宅しました。
それから数日後、同じ植え込みのところに、今度はベージュのスラックスと革靴の男性の足がありました。
また私は避けて貰ったのだと思い、顔を上げて――やはり誰も居ませんでした。
後日、クラスメイトに恐る恐る聞いてみても、誰もそんな足は見たことがないと言います。
私もその二人の足を見たのはそれきりで、もうそこをいつ訪れても、誰かを待つように立つ足や人を見かけたことは一度もありません。
ただその二人が待ち合わせをしていたなら、会えていたらいいなと、梅雨時期になるたび思いだします。
前のページ
1/1
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 8票
いい話ですね。
そう思えることが素敵だと思いました
そんな人になりたい…