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心霊

misaさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

お気に入りのパジャマの柄
長編 2022/02/01 22:44 2,817view
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私は某病院で十年ほど看護師をしています。
母や祖母も看護師をしており、幼い頃から病院では不思議な事が起こる、そんな時でも平常心を保って仕事をしろと言い聞かされて育ちました。
私自身霊感があり、子どもの頃から幽霊っぽいものを日常的に見てきたので、母たちの警告を疑うことはありませんでした。

二人の背中を追って外科病棟に勤めたものの、看護師の仕事は想像以上にハードで体力と精神が削られていきます。白衣の天使の美化されたイメージは早々に打ち砕かれました。
日々の業務の過酷さ以上に心をうちのめしたのは親しかった患者さんの最期を看取らなければいけない事で、自分自身の哀しみ以上にご遺族の嘆きぶりがこたえました。
まさか死ぬとは思っていなかった患者さんの死に立ち会った際はなおさらです。

三年前、当時私が勤務していた病院にA美さんが入院されました。A美さんは30代後半の優しげな美人で、誠実そうな旦那さんとまだ小さいお子さんがよく見舞いにきていました。
病名は乳癌ですが発見が早かったため大事には至らず、簡単な手術ですぐ腫瘍を取り除けると主治医の先生は太鼓判を押しました。
A美さんはとても気さくな人柄で、年も近かった私たちはすぐ仲良くなり、他愛ないお喋りを交わすようになりました。

「息子が寂しがってるから早く帰ってあげなきゃ。私が添い寝してあげないと眠れないのよ、夫じゃダメ」

「お母さん子なんですね。微笑ましいなあ」

ぼやくようにのろけりA美さんからは息子さんへの溢れんばかりの愛情と旦那さんへの信頼が伝わってきて、ちょっとだけ妬けました。
そしてA美さんの手術の日がやってきました。

「頑張ってくださいね、A美さん。ご家族が待っていますから」
「ありがと。またあとでね」

麻酔が回って完全に意識が途切れる寸前、A美さんはニコリと微笑んでくれました。それが覚えている限り彼女と交わした最後の会話でした。

簡単な手術のはずだったのに……A美さんは手術中に容態が急変し、帰らぬ人となりました。

「なんでよA美さん……」

腫瘍の摘出に成功したと思っても、手術中や術後に亡くなってしまうのは珍しくありません。
私はもちろんショックを受けましたが、病院ではよくある出来事ですし、他の患者さんの看護に追われるうちにA美さんの記憶はどんどん薄れていきました。第一線の看護師には哀しみに浸っている暇などないのです。

ところが……A美さんの手術からしばらくして、病院に異変が起こり始めました。深夜の病院を徘徊するA美さんらしいパジャマの女性を、複数の医者や看護師が目撃し始めたのです。
A美さんが愛用していたパジャマは旦那さんが持って帰ったので、院内に存在するはずがありません。

「確かにA美さんだったの?」
「見間違えるはずないわ、珍しい色柄だったもの」
「A美さん、明るくて派手な模様が好きだったものね。病は気からって信じてた」

きっと成仏できずさまよっているんだと同僚たちと噂し合い、心の底から同情しました。私にも子どもがいるので、幼い息子をおいて逝かねばならない辛い心情はよく理解できます。余命を覚悟していたら準備もできますが、誰もが簡単な手術と侮っていたので、彼女には家族とお別れする時間すら与えられなかったのです。

ある夜の見回り中、懐中電灯を持って廊下を歩いていると急に寒気を感じました。何かが近くにいると直感し懐中電灯を握り直せば、行く手の闇にぼんやり白いものが浮かび上がりました。A美さんの顔でした。

喉元までこみ上げた悲鳴を飲んで、必死に語りかけました。

「何か私たちに、いいえ、ご家族に伝えたいことがあるの?私でよければ代わりに伝えるから教えてちょうだい」

生前のA美さんと仲良くしていたせいか、不思議と恐怖は感じませんでした。ただただ彼女が気の毒でそう申し出たところ、虚ろな目でじっとこちらを見詰め、A美さんが一言呟きました。

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コメント(1)
  • とても読みやすい文章で面白かったです

    2022/02/02/11:50

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