分身する白装束のおじいさん
投稿者:壱 (1)
北海道札幌市の専門学校時代に間借りしていた寮の話です。
田舎者の私はこれを機に札幌で遊べると喜んでいました。
当時はバブル時期前で情報処理系が流行っていたので私も件に漏れず専門学校に通うことにしました。
選択肢は三つあって、調理師、臨床検査技師、情報処理だったのですが、流行りの情報処理を選択しました。
専門学校の斡旋で下見しに行った寮が気に入ったのでそこに決めました。
一階が食堂で風呂はありません、トイレも共同で洗濯機と掃除機も一台ありました。
銭湯は寮から歩いて15分くらいの場所だったので苦になりませんでした。
ただし冬は髪の毛が凍るときもあったのでそれがしんどかった思い出があります。
築30年以上年でしたが家賃も安かったので借りました。私の部屋は13号室で13段の階段を登り切った場所にありました。
不吉な13など特に気にすることもなく過ごしていましたが、たまに階段を上ってきた足音が私の部屋の前から動かないことが増えました。
一段一段ゆっくりと昇ってくるのです。
ドアを開けて確認しても誰もいません、気のせいかもしくは地縛霊のようなものだろうと思っていましたが気持ちが悪い現象でした。
私の部屋の前でなく廊下を歩く音も聞こえましたが、誰の姿も見えませんでした。
当時の私の楽しみはFMラジオで最新の曲を聴くことでした。部屋には他に小さなテレビと冷蔵庫、カセットコンロに石油ストーブしかありません。
私は布団を部屋の隅に敷き布団の右側と枕を壁に付ける感じで寝ていました。
窓から見える夜空が奇麗だったからです。
ある夜、またあの足音が聞こえ部屋の前で止まりました。あ~またかと思って、出入り口のほうを見た時に愕然としました。
戸をすり抜けて白装束のおじいさんが入ってきたのです。頭にはお化けが良くつける三角の物はありませんでした。
杖を突きながら 私のほうへ真っ直ぐに歩いてきました。おじいさんとは目が合った状態で金縛りになって動けません。金縛り状態でも目だけは動けたのでおじいさんを目で追いかけていました。
おじいさんはほぼ無表情のまま私のほうまで歩いてきて、歩くと言ってもスーッと移動する感じで枕元に立ちました。
枕元と言っても私の頭と壁の間に隙間はありません。おじいさんは私のおでこの上に立っていたのです。
おじいさんに重さはありませんでしたし、触れている感覚もありませんでした。おじいさんは立ったまま私を見下ろしていましたが突然分身し始めたのです。
それもおじいさんを含めて7人でした。すべて違う人たちで、老婆、おじさん、おばさん、男の子、女の子、昔の服装をしたおばさん。それらの人々が私を取り囲んだのです。
皆の服装はその当時のお気に入りの服だったのではないかと思います。
男の子や女の子は昭和の初めのような洋服を着ていましたし、おじさんはスーツでおばさんも昭和初期の薄手のセーターを着ていました。
老婆は私のおばあちゃんと同じ着物姿でしたが顔は違いました。
もしかしたら昔の民家時代に住んでいた方たちかも知れませんね。
皆は取り囲んだまましばらく私を見下ろしていました。私の身体の上に乗っている人に重さは感じませんでしたし、これから何が起こるんだと考えていたら、突然みんなで私の周りを回り始めました。
かごめかごめみたいな感じです、歌など歌わずただ周っているだけでした。
ものすごく長い時間に感じました、ひたすら耐えながら早く消えてくれと祈っていました。
が、その時は突然訪れました。彼らの動きが止まった瞬間一斉に全員で私の顔を覗き込んできたのです。
分身する幽霊は初めて聞いたw