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心霊

ちぃさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

赤サビの手形
短編 2021/12/12 18:15 1,733view
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大学生の時、友人の彼氏のサークルが企画した廃墟体験に参加したことがある。人数が欲しいから!と強引に誘われ、当日は友人の彼氏の車で、友人と共に現場近くまで行った。
目的地は有名な別荘地だった。友人の彼氏とも付き合いがあったから、ドライブ気分で道中は楽しかった。

適当なところで車を停めて数十分歩いて廃墟についた。
廃墟といっても、二階建ての古そうな建物で、管理を放棄された別荘だった。
先に他の参加者が来ていたが、なんと私たちの他に十人もいて、びっくりしていると友人の彼氏が「十三人いないと幽霊が出ないんだって」と笑いながら教えてくれた。さすがに緊張感が出ないのでは?と私も友人と笑い合った。

サークルのリーダーであるA男の引率で、私たちは裏口のドアから別荘に侵入した。
噂のある別荘なだけあって、裏口は壊れて開いていた。不法侵入だったが当時の私たちは気にせず、A男の懐中電灯だけを頼りに中へ進んで行った。

懐中電灯で照らされた中は、荒れていたが、とくに変わったところはなく、「さっさと二階に行こう」と友人の彼氏が言った。幽霊が出るというのは二階らしい。
怖がる友人の手を彼氏が握り、私はそれにあてられながら、彼女たちのあとを追った。私たちはちょうど真ん中あたりで、先頭はA男だった。

一人あるいは二人ずつ階段を登り、二階にあがっても、とくに変わったことは起こらなかった。

雰囲気は出ていたが、破れたカーテンの隙間から月明かりも差していて、あまり怖いとは思えなかった。

ひととおり二階を見て回り、「つまんねーけどいつもこんなもんだよな」とA男が軽口を叩きながら、一階に戻るため階段を降り始めた。
直後、「うわ!」と叫び声がしたかと思うと、ドタドタと音を立てながら懐中電灯の光が遠ざかった。
A男が階段から落ちたのだ。
私たちは暗くなったのもあって少しパニックになったが、慌ててみんなで一階へ駆け降りた。

A男は幸い大きな怪我はなく、「誰だよふざけたやつは!」と怒っている。誰かが右足首を掴んだ、そのせいで落ちた言うのだ。
しかし後ろにいた私たちは、誰もがしゃがみこんだりしていないことを知っている。
ゾッとしてみんなが黙ってしまうと、A男はからかわれているのだと思ったようでより怒り出した。
気まずい雰囲気のままだっが、居酒屋に行ってパーっと飲もう、ということになった。

それぞれ車を停めたところが違ったので一旦解散し、私は友人と友人の彼氏と居酒屋へ向かった。

だが、居酒屋でも雰囲気は悪いままだった。A男の右足首に、赤錆のようなものが、まるで手形のようについていたのだ。
「階段でふざけるなんて最低だ」と怒るA男、心当たりがない私たち。
飲みは盛り上がらず、すぐにお開きとなった。

帰りの車内で、友人の彼氏は「あれはA男のおふざけで、自作自演なんじゃないか」と言い出した。確かにそれなら筋は通ったので、怖い気持ちを紛らわしたくて私たちも賛同した。

その後、私は友人との付き合いは続いたが、友人たちが別れたので、例のサークルとは縁がなくなった。他の友人伝てに、たまに廃墟探検や肝試しをしているらしい話は聞いていた。

半年ほど立った頃だ。A男が交通事故に遭い、右足首を切断したと別の友人に聞かされた。彼は精神的にまいってしまって、退院後は実家に引きこもっているのだそうだ。大学も中退するらしい。私はあの日のことを思い出した。まるで乾いた血のような、赤い錆…。

友人ともその話になったが、彼女はあっけらかんと「私たちは何もなかったから大丈夫でしょ」と言った。私もそう思いたかった。

やがて私は就職活動で忙しくなり、地元で早々に就職が決まった友人とは疎遠がちになった。久しぶりに会ったのは、卒論の合同発表会の場だった。友人は私を見るなり、「A男のこと、聞いてる?」と不安そうな顔をした。

友人曰く、A男はあのあとも実家で引きこもっていたが、ある日、突然失踪したらしい。
母親が朝、起こしに行くといなくなっていたのだ。ベッドが血まみれだったので警察に通報したが、血だと思われたのは赤サビで、成人の失踪ということで捜査もされなかったのだと。

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