「助けてください、私は引きずられているんです」
投稿者:芸者 (2)
これは僕が大学生の時の話です。
僕は当時も一人暮らしをしていました。築40年の古いアパートです。ある夜、僕が部屋でテレビを見ていると、インターフォンが鳴りました。時計を見ると、22時を過ぎていました。こんな時間に誰だろうと思いながら、僕は玄関に行きました。そして、覗き穴を覗きました。そこには見覚えのある顔があり、よく思い出すと隣の部屋に住んでいる20代後半くらいの女性でした。名前まではわかりませんが、すれ違うと挨拶をしていました。ぱっと見てわからなかったのは、彼女が鬼気迫る表情だったからです。彼女は何度もインターフォンを鳴らしました。
「どうしたんですか?」
僕は少し警戒していたので、ドアは開けずに話しかけました。すると彼女は、インターフォンを推すのをやめ、
「助けてください、私は引きずられているんです」
と言いました。
僕にはその意味がわからず、どういうことかと聞き返すと、彼女は
「助けてください、私は引きずられているんです」
と、うわ言のように繰り返すだけでした。
僕は恐怖を感じ、リビングに戻ってスマホを手に取りました。そして、警察に連絡しようとしました。番号を押しながら玄関に戻ると、彼女の声はすっかり聞こえなくなっており、覗き穴を覗くと彼女の姿は忽然と消えていました。ドアを開けて周りを見渡しても、彼女はどこにもいません。これ以上深入りしたくなかった僕は、部屋に戻りその日は寝ることにしました。
彼女が電車に飛び込んで自殺したことを知ったのは、それから少し経ってからでした。どうやら彼女は、僕の部屋のドアをノックした日の朝、出勤中にホームから電車に飛び込んだらしいのです。
そう、「朝」です。
あの日僕の部屋のドアをノックしたのは彼女の亡霊だったのでしょうか。彼女は「助けてください、私は引きずられているんです」と言っていました。彼女はどこに引きずられてしまったのか。僕はネットか何かで、自殺した人は天国には行けず地獄に落ちる、という話を聞いたことがあります。彼女は地獄に引きずられてしまったのか。あるいは、もっとひどい場所に……。
怖い