酒に酔ったある男が市ヶ谷の付近を夜歩いている。
公園に差し掛かかったところで喉の渇きを感じ、これは都合が良いと水飲み場にふらふらと進んでいく。
すると、水飲み場の傍に着物を着た大変美しい女性が立っているのを見つけ、軽い下心もあり声をかけようと近づくと、
「ああ、口惜しや・・・悲しや・・・。何度数えても9枚しかない。何度数えても誰も見てくれない・・・」
と女が呟いている。
その様子にこれはただ事ではないと男は恐る恐る女に何事か問いかけました。
「私はお菊と申す者で、昔主人の10枚一揃えの家宝の皿の1枚を失くした濡れ衣を着せられ、大変な折檻の後に殺されました。
その後主人を呪い殺しはしたのですが、それでも恨みは晴れず毎晩毎晩落とされた井戸から現れ出ては皿を数えて、恨みを発散しておりました。
そんな毎晩を過ごしていましたらね、段々私も有名になりましてね、江戸中の人が、お菊お菊と見物に来るほどでそれはもう大変な人気でしたよ。今思えばあの頃が私の人生の絶頂だったかもしれませんね。
しかし時の流れは残酷なもので、もはや我が家同然だった井戸も埋められてしまい、はてこれからどこに出て皿を数えよかとやきもきしているうちに、幕府は倒れ戦争が起こって、世は目まぐるしく変わっていき、気づけば世の中面白いものだらけ。そしたら今じゃ誰も私を気にかけなくなった。それが口惜しく悲しいのです」
この男、青山はこの女があの番町皿屋敷のお菊かと驚いたが、同時にこれは使えるかもしれないと打算を立てる。
この男、実は売れないYouTuber。センスもなければアイデアもなし。いつも誰かの二番煎じ。当然チャンネルも鳴かず飛ばず。
そこで必死にお菊を説得。
世界初の幽霊のYouTuber(幽Tuber)になり、天下に名を轟かそう、目指すは登録10万人、銀の盾。
お菊はお菊でチヤホヤされたあの頃を忘れられず早速乗り気。
よくはわからないが今は見せ物小屋に行かずとも、いんたあねっとを介して世界中の人が見物客になれるとのこと。
数百年磨いた私の数えっぷりを皆々様とくとご覧あれと大張り切り。
2人で夜毎打ち合わせをし、とうとうやって来た配信初日。
「皆さん!こんばんちょう!新人幽Tuberのお菊です」
期待に胸振るわせながら開始するも悲しいかな底辺チャンネル。
「えー、皆さんお立ち寄りありがとうございます。視聴者が1人〜、2人〜、3人〜・・・9人にすら届かない・・・」
「あ、コメントありがとうございます!えーなになに?『やらせ乙』『流石に無理があって草』『ビジュよき』・・・」
「あー、それではそろそろいつものあれやらせていただきます。」
『初配信なのにいつものなのか?』『VTuberの転生?』
「鉄山〜恨み晴らさでおくべきか〜」
『てつさんて誰?』『恨んでるのにさんづけなの草』
「1まーい、2まーい、3まーい」
(同接6)
「4まーい、5まーい、6まーい」
(同接3)
「7まーい、8まーい」
(同接1)
「待っておくんなまし!ここから!ここからがいいところなんでございます」
「9まーい・・・何度数えても1枚足りない・・・」
『なんで数えてんの?』
「そこからでございますか⁉︎まるで2度殺されたかのような心地でございますよ」
『よくわかんないけどかわいいから登録』
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。