ある女性から聞いた話。
夏が来ると、気の合う同僚たちと泊まりがけで海に行くのが恒例行事。距離的な負担が少ないことに加え、白い砂浜の上で味わうバカンス感が格別なので、海水浴場は毎年同じところに行く。宿泊先だけ、その年の気分とプラン次第で変えるようにしていた。
その日も例年通りに砂浜を訪れていた。日が暮れて風も出てきたので、ホテルへ向かおうかという時間帯だった。持参したバレーボールが、ぽーんと飛んで転がっていった。風の仕業というより、誰かが蹴ったような飛び方だ。
あ、私取ってくるね。
テントなどの片付けを同僚達に任せて、女性はボールを追う。下り坂でもないのに転がる勢いは増す一方。小走りでは追いつけず、半ば本気のダッシュを強いられる。それでも間に合わず、座り込んでいる誰かにボールが当たってしまった。
あ〜、すみません…
遅れて追いつき、肩で息をしながら詫びる。座ったままの姿勢でボールを拾ったのは、青いドレスを着てヒールを履いた女だった。結婚式の帰りだろうか。しかし、こんな格好で砂浜に来ては、後の手入れが大変ではないだろうか。そして何故か、ボールを返してくれる気配がない。
あの、ボール…
「ここの砂浜って、白くて綺麗ですよね。ヒトの骨を砕いて撒いたら、分からなくなっちゃうのかな」
ドレスの女は唐突に、俯いたまま気持ちの悪いことを呟いた。よく見ると、ドレスや足には全く砂が付いておらず、夕日がつくるはずの影もない。ばっと風が吹き白い砂が舞っても、女の髪や服は動かない…完成度の高いCGを見ているような、奇妙な感覚だった。
「見つけてもらえないのは、やっぱり寂しいよ」
え?
瞬間、先ほどより強い風が吹きつけた。砂から目を守ろうと、腕で顔を覆う。風が止むと、ドレスの女は消えてボールだけが残されていた。
この海水浴場の付近には飲み屋街がある。その中のとあるスナックで、何年も前に失踪してしまった従業員が居るらしい。夜に生きる人間の多くは、何かしらの事情を抱えているもの。ある日を境に姿をくらます例も少なくない。夜逃げしたのか、はたまた事件に巻き込まれたのか…事実を知る者、知ろうとする者は誰も居なかったという。
女性がこの話を知ったのは、不思議な体験をしてから数ヶ月経過した後だった。関連性は、正直なところ何も分からない。それでも海へ来るたびに、ドレスの女へ思いを馳せるようになったそうだ。


























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